ぶらり ボルネオ、コタキナバルの旅 2013.12.14~12.19 早朝鶏の鳴き声で眼ざめ、窓を開けると鬱蒼と茂る熱帯雨林の樹上にツバメが飛び交いセミが 鳴いていた。昨年12月中旬、ボルネオのコタキナバルを訪ねたときの朝の風景である。 コタキナバルは、ボルネオの一番北側に位置するマレ-シア領サバ州の州都で人口約60万の街、 赤道付近にあるため、12月でも日中の温度は27度C位ありむし暑いが朝はしのぎやすい。郊外に 出ると広大な熱帯雨林のジャングルが広がり、様々な動植物が生息している。 今回の旅はパックツア-ではあったが添乗員はついていないため、観光は現地ガイドが案内して くれた。そのいくつかを紹介させてもらうことにする。 12月15日 コタキナバル国立自然公園周辺 ラフレシアの花 2013.12.15 コタ・キナバルから東へ車でいくつかの峠を越え、2時間半位走ったところに第二次大戦中 旧日本軍が開発したとされるポ-リング温泉があるが、ラフレシアはその近くで見ることが出来た。 車から降り、のどかな丘陵地の小路を500m位歩いて行った森の中にひっそりと咲いていた。 私はボルネオにラフレシアがあるということは知っていたが、まさか見られるとは思っていなかった ので非常に嬉しかった。運がよかったのである。 大きいものは直径1メ-トル位になると言われているが、今回見たものは直径60センチ位。 咲いていたのは一輪だけ、その周りにいくつかのツボミが見られた。ツボミの大きさは花開いている ものよりかなり小さい。花が咲くまでに2年、ツボミから9ヶ月かかり、花が咲いても一週間で枯れて しまうらしい。 私たちが見たのは3日目で一番いい時に花をを見ることができたが、そうした チャンスはめったにないのである。花の形は実にユニ-ク、シャレタ火鉢を思わせる?...あるいは 地上に降りた火星人か?...大きな灰皿はすこし可哀そう...。 ラフレシアの花とツボミ 花は周囲をぐるりと取り囲んだ花弁の中にある。雄花と雌花に別れ、雄花の葯から粘液に包まれた 花粉が出る。受粉はこの花の臭いにつられて中に入ったハエが媒介して成立するらしい。ブドウ科の 植物に寄生し、茎、根、葉はない。世界で一番大きな花。ラフレシア科のラフレシア属。 貴重な植物だけに鹿などに食べられないように柵が張られ、そばの小屋には24時間体制で監視する 女性の管理人がいた。私たちも櫓の上から見るだけで下に降りることは出来なかった。この土の中に 眼に見えない種子やツボミがあり、踏みつぶしかねかいからである。ツボミは、一見キノコのような 形をしていた。 ラフレシアのツボミ ポ-リング温泉もキナバル国立公園内にあるのだが、ここからさほど遠くないところに自然保護区 がある。標高1500m位のところにあり、とても涼しい。寒暖差が激しくよく霧が発生するところ らしいが、今回は薄日が入り見通しは良かった。 私たちは熱帯雨林のジャングルの中の遊歩道を散策しながら、珍しい様々な植物を見ることが できた。中でも一番眼を惹いたのがウツボカズラ。この仲間は東南アジアを中心に70種あるらしいが、 最も集中しているのはボルネオ島のキナバル山周辺で、数多くの種が見られるという。ただ私たちが 眼にしたのは2種類だけ。 ウツボカズラの一種 ウツボカズラの一種 ウツボカズラは、昆虫を捕えて溶かしたものを栄養源として生きている食虫植物。 葉の先端に長く伸びたツルの先に捕虫器がある。この捕虫器の内側はツルツルになって、虫が落ち やすいようになっている。中には消火液が入っており、落ちた虫はこの液で溶かされる。この中に カエルやカタツムリが見つかった例もあるという。 袋の形は楕円形、ヒョウタン型、ラッパ状、色も緑のものから黄色、赤味を帯びるもの、表面に まだら模様があるものなど、種によって様々らしい。 下の写真はもう一つのウツボカズラ。ただこれは植えられたもの。 上の方がラッパ型とすればこちらはツボ型。鉢の中にある葉の先端から長いツルが伸びて、その 先がふくらんでツボ型の捕虫器となっている。ところが葉に見えるのは葉柄が広がったもので、実際 の葉の本体は捕虫器なのだという。 上のウツボカズラも同様である。ツル性の食虫植物でウツボカズラ科のウツボカズラ属。 ウツボカズラの一種 園内には珍しい植物がたくさん眼についたが、日本の植物に似ているものは一部を除いて 見られなかった。当然のことながら和名はついていない。ただその仲間らしいものは、ガイドの案内 でいくつか見当がついた。 左はバナナの一種の花で、実が食べられるバナナとは別種のもの。ガイドは俗にゴクラクチョウ と呼んでいたが、極楽鳥の頭の形に似ているところがあるためか。調べてみると、オウムバナ科の 一種と思われる。 右はネムノキの仲間。花も葉も日本のものとよく似ている。この時期日本のネムノキは葉をすべて 落としているが、ここでは青々とした羽状複葉の葉を繁らせていた。ネムノキは本州から沖縄まで 分布するが、花は夏に咲くところから考えると、そのル-ツは亜熱帯から熱帯にあるのかもしれない。 オウムバナ科の一種 ネムノキの仲間 青色の鮮やかなアサガオが見られた。アサガオは熱帯アジアが原産と考えれているツル性の1年草。 奈良時代に薬用植物として渡来しているが、観賞用として改良されたのは江戸時代とされている。 本来はこの辺りがアサガオのル-ツなのである。 ガイドの話ではボタンの仲間だという、赤い実をたくさんつけた低木がやたらに眼についた。 しかし日本にあるボタンとはイメ-ジが違う。果実の姿はミズキによく似ている。 アサガオの一種 ボタンの仲間? シダの一種でオオタニワタリが高い樹木に着生し、大きな葉を四方に広げていた。この仲間の コタニワタリは日本の日本海側に見られるという。 暗い樹林の中でひときわ眼を惹いたのが赤い花をつけた、キナバルバルサムと呼ばれるホウセンカ の仲間。日本で植えられているホウセンカの中には寒さにも暑さにも弱いと言われるものがあるが、 ここのホウセンカもそうなのかもしれない。寒くも暑くもない樹林の暗がりの中にひっそりと咲いて いた。 オオタニワタリ ホウセンカの仲間キナバルバルサム 園内の遊歩道はよく整備され歩きやすい。上を見上げると、空に突き上げるような高い巨木が頭上 を覆っている。辺りには大きなヤシやシダ類が茂り、ヒカゲヘゴと呼ばれる樹木のようなシダの一種 も見られた。しかしどの植物もみな大ぶりである。日本のような温帯性植物とはまったく違う。 キナバル国立自然保護区の風景 左の花、ガイドはシャクナゲの仲間と言っていたが、果たしてどうか?、そうだとすればなかなか 珍しいシャクナゲである。普通眼にするシャクナゲとは、花もすがた形もまったく違う。 右はランの一種でジャンアントランと記憶している。このランもそうだが、樹木に着生するランが よく眼についた。 シャクナゲの仲間? ランの仲間 樹木に着生するラン 樹木に着生するラン 樹木に着生する果実? ポ-リング温泉の裏手の山道を150メ-トル位登って行くと、地上40mの高さにに架けられた吊り 橋がある。いつもは下から仰ぎ見ることしかできない熱帯雨林を、上の方から見ようという試みで つくられたものらしい。ロ-プを編んでつくられた長さ30~40m位の吊り橋が、峡谷の間に6本架け られていた。幅も人間一人がやっと通れる位。歩くと大きく揺れ動き空中散歩している気分になる。 なるほどここから眺めると、ジャングルの様子がよく分かる。葉を大きく広げた無数の樹木が空に つきあげ、谷間も深い草木に覆われていた。 バ-ドウオッチングによさそうなところだ。時々聞こえる野鳥のさえずりが心地よい。 吊り橋から眺めた熱帯雨林のジャングル よくロ-プが切れ落ちたりしないものかと心配したくなるが、そうした事故は一度もなかったという。 定期的にメンテナンスが行われていると聞いた。 地上40mに架けられたロ-プの吊り橋 12月16日 リバ-クル-ズ 翌日はコタキナバルから南西へ、ココナツや油ヤシで縁取られた道を車で2時間走り、水上集落の 村に着いた。ここはクリアス川の支流で、リバ-クル-ズの出発点となっているところである。 床上式レストランでコ-ヒ-を飲みながら辺りを見回すと、白い花をつけた樹木があちこちに 見られた。 ガイドに聞くとマングロ-ブの花だという。マングロ-ブは熱帯から亜熱帯の海水と真水の交わる ところに生育する樹木の総称のことで、多くの種類がある。ココナツも大きなな葉を繁らせ赤味を 帯びた実をつけていた。 床上式レストラン 2013.12.16 マングロ-ブの白い花 ココナツの実 しばらく休憩したあと私たちは小さなボ-トに乗り、リバ-クル-ズに出かけた。 両岸にはニッパヤシやマングロ-ブが生い茂り、次第にジャングルらしい様相を帯びてくる。 川幅は100m位か、流れはほとんど感じない。船を出てほどなく、船頭が何か言いながらさかんに 河岸の方を指している。ふり向くと、樹木がザワザワと揺れ動いているのが眼に入る。樹から樹に 飛び移っているテングザルだ。船を河岸に近づけてくれたが、それでもかなり遠い。テングザルは 遙か樹上にいる。10数匹の群れで移動しているようだ。群れの中のボスがこちらを見つめていたが、 やがて皆を引き連れ森の中に消えていった。 テングザルはボルネオ島固有種で、天狗のような鼻と太鼓腹が特徴。食べ物はマングロ-ブの若葉。 地面に降りることはあまりなく樹上で生活していることが多いが、泳ぎは上手いらしい。 さらに船を進めていくとカニクイザルやメカムザルもいたということだが、私には黒い影のような ものが見えただけで、はっきりしなかった。 対岸にはマングロ-ブの白い花が咲き誇り、野鳥の高いさえずりが響く。上を見上げると九官鳥が 空高く飛んでいくのが見えた。 行き交うリバ-クル-ズの船 テングザル 左の写真でこちらを向いているのがボス 私たちは一旦レストランへ帰り夕食をとったあと、ナイトクル-ズに出かけた。夜の暗闇の中を しばらく行くと、ジャングルの中にキラキラ光るものが見えてきた。無数のホタルが飛び交っていた のだ。樹上やその周りを高く動きまわっている。まるでクリスマスツリ-のような輝きである。光は 弱いが数の多さでそれをカバ-している。1日中飛んでいるそうだが昼間は見えない。季節に関係 なく年中見られるという。 日本のホタルよりもかなり小さく、体長3ミリ位で色は薄茶色。写真を撮るべく試みたが、真暗な ものが写っているだけだった。わがデジタルカメラではとても無理なようだ。 12月17日 マヌカン島~サビ島 3日目はオプションに申し込み、コタキナバルの眼の前に浮かぶ島巡りを楽しんだ。参加者は私と 老夫婦1組の3人とガイド。 コタキナバルの港から高速艇に乗り20分ほどでマヌカン島に着く。海岸線の白い砂浜が美しい、 水も青く澄んでいる。南シナ海の小さな島である。この日はよく晴れて、正面にキナバル山を遠望 することができた。海抜4095mの東南アジアで一番高い山である。 キナバル山 海抜4095m マヌカン島海岸の風景 私は18年前の1996年2月キナバル山に登ったことがある。わが書棚の中をかきまわしてみたら 当時の写真が出て来た。写真を眺め、遠い記憶を辿りながら書いていくことにする。 登山口は海抜1830m。しばらく鬱蒼とした森の中を歩いて行く。登山道はよく整備されていて歩き やすい。傾斜が急になると必ず木材で補強した階段や手すりがつくられている。途中には道標や 自然について説明した看板も眼につく。珍しい動植物を育む山として知られているところで、私が 初めてウツボカズラを見たのもこの山道である。やがて、樹木の間からキナバル山が見え隠れして くる。 登山道でしばらく休憩 1996.2.10 登山道から見えてきたキナバル山 午後になって雨が降り出してきたが間もなく止み、晴れ間も出てきた。重い荷物はガイドやポ-タ- たちが運んでくれている。中には2つも3つも抱えているポ-タ-もいるが、それでも歩く速度は 私たちよりも早い。 私はポ-タ-代を節約してやや大きめのザックを背負って歩いた。重さは8kg前後。 ところどころ置かれている休憩所で10分位休む。ゆっくり歩いているのでそれほど苦しくはない。 楽しい山歩きである。登山道を出発したのは8時頃だったように思うが、15時半頃には山小屋に 着いている。途中昼食をとったり何回も休憩しているので、実質歩いた時間は6時間位。 山小屋は海抜3352mのところにあるラバン・ラタ・レストハウス。登山口から標高差1500m余り を登ってきたことになる。 キナバル山登山道の休憩所 ラバン・ラタ・レストハウス ここは日本の森林限界をはるかに越えた高さにあるが、無数の緑濃い木々が大地を覆っていた。 シラカバやダケカンバのような白い木肌のものが多い。ただ風が強いのか、みな曲がりくねっている。 この山小屋は日本のそれのように、せせこましい感じはない。2段ベッドが備え付けられ食堂も広々 としている。レストハウスという名前だけあって、なかなかシャレテ山小屋である。この背後には、 キナバル山の一角が荒々しい岩肌を見せていた。 私たちは翌日の早朝3時に山小屋を出発し、山頂をめざした。標高差743mを往復してくるのだ。 熱帯とはいえ、この高さにくると非常に寒い。暗闇の中、懐中電灯をもって進んで行く。しばらくは 急な階段が連続する。斜めに走る割れ目に沿って、トラバ-ス気味に登るようなところもある。 小1時間ほどでサヤッ・サヤッ・ヒュッテに着く。この辺りの高度は約3800m。 ここを過ぎ頑丈な花崗岩の岩盤上をひたすら登っていくと、ロバの耳のように聳え立っている2本の 岩峰が現れてくる。ドンキ-ズ・イヤ-ズとトゥンク・アブドゥル・ラ-マン峰と呼ばれる奇岩で ある。 様々なキナバル山の岩峰 ここを過ぎたところで、アッと息を飲むような大きな景観が眼に飛び込んできた。一見平坦に 見える大岩盤の広がりである。遙か四方に花崗岩の大平原がどこまでも続いている。どこが山頂 なのか、見当がつかないほど広々とした大地である。しかし山頂に向かって太いロ-プが張られて あった。 私たちはそのロ-プに掴り、ゆるやかな傾斜を登って行った。山頂は眼の前に見えてきたが、 なかなか近づいてこない。空気が薄くなり息苦しい。最後の100mがキツかった。息苦しいのを我慢 しながらガムシャラに登って行った。そしてようやく4095mの山頂に着いたのである。 当時の標識には海抜4101mと書かれていたが、現在は4095mに訂正されている。 登頂する前からすでにガスが立ちこめ、視界はあまりきかなかったが、何とか登り切ったという 思いで一杯だった。山頂のスペ-スは非常に狭く、自分の写真を撮ってもらったあとすぐに下山への 道をとった。 キナバル山山頂にて 海抜4095m 1996.2.11 マヌカン島では海岸線を散策したあと、トレッキングコ-スがあるというので行ってみた。 船着場の裏から山道に入りしばらく登って行くと尾根道に出た。行き交う人は誰もいない。鬱蒼と した熱帯樹林が辺りを覆っている。針のようなトゲトゲの木肌をもった樹木やヤシ、シダ類が茂る 道を歩いて行く。時々樹の間から海が見えることもある。聞こえるのは野鳥の鳴き声ぐらい、実に 静かである。カサカサする音がしたので見ると、小さなトカゲが枯れ葉の上をチョロチョロと動いて いた。 マヌカン島の樹林 小さなトカゲ 私がトカゲの写真を撮っているとき足音がしたのでふり向くと、欧米系の若い青年がこちらに 向かってきている。通り過ぎるときニコニコしながら”ハロ-”と声をかけてくれた。こんなところに 一人で来るのは自分だけかと思ったら彼も一人…どこか親近感を覚えるような青年だった。 私は片道約1.5kmの山道を往復して海岸に戻り、11時の船で次のサビ島に移った。 この島には大勢の観光客が来ていた。家族連れが多く海水浴を楽しんでいる。そのほとんどは中国人 だった。 この島で大きなトカゲを見ることができた。体長は2m以上ありそう。ミズオオトカゲという。 泳ぐのが上手く、樹登りも得意らしい。時々観光客がバ-ベキュウを与えるためか、人間を恐れず そこらじゅうウロウロ這いまわっていた。トカゲというよりはワニのような風貌だ。 ミズオオトカゲ 舌を出した瞬間 樹上のミズオオトカゲ このミズオオトカゲ、近寄りすぎると大きなシッポで叩かれることもあるという。同行した 老夫婦の奥さんは、浜辺にいたミズオオトカゲに足をピシリとやられたらしい。 それにしてもこのオオトカゲ、太古の昔は大陸に棲んでいたにちがいない。しかし大陸から切り 離され小さな島になっても、ミズオオトカゲはこの地に生き延びてきたのだろう。あるいは泳ぎが 上手いというから大陸からこの島に渡ってきたのかもしれない。 私たちは海辺の屋外レストランで昼食をとった。熱帯とはいえ海辺の風は心地よい。暑くも寒くも ない。涼しい風に吹かれながらビ-ルを飲んでいたらいい気分になった。サビ島はあまり知られて いない南国のリゾ-ト地である。ただやや観光客が多すぎる。18年前キナバル山のトレッキングを 終えてこの島に来たときには、ほとんど人影は見られなかったのだが…。 サビ島海辺の風景 昼食後しばらく休憩したあと船に乗り、15時前にはホテルに帰った。 翌日はフリ-タイムだったが、午前中市内を散策して午後は休息に当てた。 コタキナバルは私が18年前見た風景とは随分変わっていた。街中は近代的なビルが立ち並び、道路 もきれいに舗装され、道端で品物を並べているような光景は見かけなかった。ただ夜になると露店が 出され、屋台も数多く見られた。ス-パ-前の屋台で食べたラ-メンはとても美味しかった。今でも その味が舌に残っている。 5泊6日のコンパクトな旅だったが、それなりに楽しめた。私の思い出の旅の一つになるだろう。 2014・1・24 記 ― 了 ― 私のアジア紀行 http://www.taichan.info/ |