千葉の里山散策  第2部

                     2015年4月~5月


                    
スイカズラの花に止まる オナガアゲハ  市原市 2015.5.30

           

      利根運河周辺  2015.4.19

     東武野田線の運河駅に降りると、利根川と江戸川を結ぶ運河が流れている。1890年(明治23年)
    東北からの物資を船で東京へ運ぶためにつくられた運河で、最盛期には高瀬船や外輪蒸気船が
    1日100艘ほど運航していたそうだが今はそうした面影はまったく感じられず、川沿いの土手の
    上をのんびりと散策したりサイクリングを楽しむ人たちが見られ、時にはイベントも行われる
    市民の憩いの場になっているようだ。川風に吹かれながら、広々とした風景のなかを散策するのは
    気持よい。辺りの谷津や土手沿いには、四季折々様々な花々が見られる。

     そろそろ新緑が始まろうとする4月半ば過ぎ、私はこの界隈を訪ねた。運河駅を降りて左に
    東京理科大学を見ながら歩いて行く。辺りには野鳥の鳴き声が響き渡り、川にはカルガモやバン
    などが小さな群れをなしていたが、水鳥は冬場ほど多くはない。
    しばらく行くと柏大橋が見えてくる。手前の土手下には菜の花が咲き乱れ、枯れた葦が川沿いを
    埋めていた。

                          柏大橋付近の風景

             

     道端にはノジシャ、ヒメオドリコソウ、オオイヌヌフグリ、カラスノエンドウ、ナガミヒナゲシ、
    タンポポホトケノザなども見られ、春の日差しを浴びていた。上を見るとクヌギは赤い穂を垂れ
    下げ、他の落葉樹も若葉を出しはじめていたが、まだ薄緑色。さらに行くと、赤い花穂をつけた
    スイバ(酸い葉)や生えはじめたイタドリ(虎杖)がやたらに眼につくようになる。
    どちらもタデ科の仲間。スイバは茎や葉にシュウ酸を含み、酸っぱいのでこの名がついた。
    終戦直後の食べ物が極端に乏しかった時代、私はよくスイバをかじり、母親もこのスイバの葉を
    おひたしにして食べさせてくれた。そのためか、今でも私はスッパイものが好きである。

     虎杖は中国名。芽生えたばかりのときは竹の子そっくりで、茎に赤味を帯びたまだら模様がある。
    中国ではこれを虎の皮にたとえたものだという。日本ではその昔、イタドリの葉を煙草の代用に
    したこともあったらしい。子供の頃はこの茎をスカンポといってよくカジッタが、スイバほど酸っ
    ぱくはない。写真のイタドリは食べ頃である。


              スイバ               生えはじめたイタドリ

          

     右手は谷津の中にヤナギやエノキなどの落葉樹が繁茂し、左手は運河沿いに大きく視界広がり、
    木々の間や田園の向うに集落が点在する。土手の斜面を下り右手の谷津の中に入ってみること
    にした。かっては田んぼがつくられていたところだが、今は道もよく分からないほどに荒れた
    湿地となっていた。ノイバラのトゲに刺されないように草叢をかきわけて奥に入ると、流れのそば
    に繁茂したクレソンがあった。和名をオランダガラシ(和蘭辛子)という。
    ヨ-ロッパ原産で繁殖力が強い。肉料理やサラダのつけあわせに栽培されていたものだが、今では
    川沿いのいたるところで見られる。

                      荒れた湿地となった谷津

           

                     流れのそばに繁茂したクレソン

          

     谷津から引き返し再び土手沿いの斜面を上りはじめたとき、鮮やかな花が眼についた。
    クサボケだ。朱赤色の花びらがとても美しい。よく観賞用として植えられている中国原産のボケは、
    上向きに伸びて2-3mになるが、クサボケ(草木瓜)の高さは30cm位。秋には黄色い果実をつけ、
    香りがよいので果実酒に利用される。

                         クサボケの花

           

     やがて対岸に架けられた橋が見えてくる。その橋を渡り田園風景が広がる農道に入って行く。
    道沿いには水路が流れ、ヤナギ、ハンノキ、ニワトコ、モミジイチゴなどの木々が岸辺を縁どって
    いた。畔道にはタチツボスミレ、ハルジオン、タガラシ、ヘビイチゴなどが眼につく。
    ムラサキサギゴケ(紫鷺苔)もあった。マット状に無数の花を広げていた。意外に早い。あと
    1週間もすれば辺り一面に群生することだろう。
    紫鷺苔という漢字が当てられているが、花の形がサギの頭を思わせることからこの名がつけられた
    という。似ているかな?…。

      カキドオウシ(垣通し)の花も咲いていた。まだ生え初めでこの頃の花は可愛い。繁殖力が
    強く垣根をくぐりぬけるほど繁茂するのでこの名があるという。田んぼや、葉竹、庭のすみ、
    やぶのまわりなど、どこにでもふつうに見られる多年草だ。

             ムラサキサギゴケ                カキドオシ

          

     畔道を歩いて行くと前方遠くに集落が見えはじめてきた。さらに進んで行くと集落手前付近に
    「こうのとりの里}と書かれた施設があった。初めて眼にする建物だ。この辺りは随分前から
    歩いているが気づかなかった。調べてみると、野田市が子供たちに多くの生き物がいる環境を
    残したいと考え、平成24年12月に多摩動物公園から2羽のコウノトリを譲り受け、飼育を始めた
    という。
     新聞記事によれば、今年3月20日~24日にふ化し、元気に育っているコウノトリの幼鳥3羽を
    7月23日試験放鳥するという。成功すれば関東初となる。
    この辺りはコウノトリの餌となるドジョウや小魚、サワガニ、カエルなどがたくさんいそうな
    ところだ。無事野生に定着し、大空を飛ぶコウノトリの姿を見たいものである。

          コウノトリを飼育する施設          こうのとりの里周辺の風景

          

     施設の中に入って見学することもできたがとりやめ、運河から引いたと思われる川に架けられた
    橋を渡り、対岸の畔道を歩いて引き返すことにした。やはりこの道沿いにも小さな流れがあり、
    そこを覆うようにニワトコやヤナギの枝が垂れ下がっていた。ハンノキも見られた。すでに花期を
    終えて若葉を茂らせていたが、前年の黒い果穂を残しているものもあった。

                    前年の黒い果穂を残したハンノキ

           

     畔道から山道に入り、そこを通り抜けて再び運河沿いの土手に出る。往路の対岸にある道である。
    土手の斜面にはアザミが咲いていた。よく見るとヒレアザミ(鰭薊)だ。緑の草原の中で赤い
    花穂がよく目立つ。ヒレアザミはその名の通り茎にヒレ(翼)がある。往路では気づかなかったが、
    こちらの土手沿いにはたくさんのヒレアザミが見られた。

                         ヒレアザミ

           

     土手沿いには、小さな花をたくさんつけたコメツブツメクサ(米粒詰草)がマット状に広がって
    いた。なかなか可愛い。道端や野原などに群生する1年草。通り過ぎようとしたが、なぜかこちら
    を見ているような気がした…カメラを向ける。花が米粒のように小さいのでつけられた名前らしい。

     土手から右手に下り東京理科大学の敷地内にある自然公園に入って行くと、林のふちに
    センボンヤリ(千本槍)があった。ただ長い柄の先につけた紫色の頭花(花の裏面)が見えるだけ
    で、完全に開ききっていなかった。もうしばらくすると、あるいは日当りがよくなれば、表面の
    白い舌状花を開くだろうと思われる。
    名前は、秋に直立する多数の閉鎖花の花茎を槍に見立てたものだという。

            コメツブツメクサ                センボンヤリ

          

      その後自然公園を通り過ぎて土手沿いに戻り、ほどなく運河駅に着く。

      四街道~吉岡坂下~みそら団地~物井  2015.4.21

     四街道郊外の吉岡坂下周辺は、二つの丘陵に挟まれた原が広がっている。田んぼもあれば谷津の
    ようなところもある。のどかな里山といってもいいだろう。
    山沿いにはそれぞれ狭い農道が通っている。その東側の道を歩いていると、草の茂みから騒がしい
    オオヨシキリの鳴き声が聞こえてきた。この日は4月21日、夏鳥なのにすでに南方からやってきた
    のだろう。

                        吉岡坂下付近の休耕田の原

           

     辺りに眼を配りながら歩いていると、林のふちにかたまりとなって生えているジュウニヒトエ
    (十二単)に気づいた。小さな花をいっぱいつけてスックリと立っている姿は、白まだら模様の
    衣服をまとっているようにも見える。名前は幾重にも重なって咲く花の姿を、宮中の女官の礼装の
    十二単に見立ててつけられたいう。しかしすばらしい名前をもらったものだ。
    ジュウニヒトエは日本固有種だが、それゆえに名付け親は往古の日本女性の美しい姿をイメ-ジ
    してこの花に当てたのかもしれない。この人もまた、想像力豊かなロマンティストにちがいない。

                        ジュウニヒトエ

           

     上を見上げるとウワミズザクラが咲いていた。その形は一見サクラのようには見えないが、
    れっきとしたサクラ属である。たくさんの花穂が風に揺られている姿はどこか風情を感じる。
    漢字では上溝桜と書くが、どうやら古代の亀甲占い(亀卜)で溝を彫った板に使われたことに
    由来するらしい。そのためウワミズザクラの古名は、ははか(波波迦)と呼ばれた。
    果実は黄赤色から黒く熟す。新潟県などではつぼみや若い果実を塩漬けにし、山菜として食用に
    するという。つぼみの塩漬けは杏仁香と呼ぶ。

                        ウワミズザクラ

           

     荒れた湿地帯を通り過ぎると明るい田園が広がってくる。田植え前の作業している人の姿も
    チラホラ。山側の草叢に眼をやると、赤い実をつけたマンリョウ(万両)があった。よく民家の
    庭先などにも眼にする常緑の低い木だ。縁起のいい木とされ、正月飾りにも利用されている。
    ちなみに千両はセンリョウ、百両はカラタチバナ、十両はヤブコウジ、一両はアリドオシに例え
    られる。マンリョウは、赤い実をたわわにつけた様が他のどれよりも豪華であるとしてつけられた
    名前。これらの名前は、おそらく江戸時代につくられたものだと思われる。

                       マンリョウの赤い実

           

     その後対岸への道をとって民家のそばから坂道を上り、のどかな谷津の風景を見ながらみそら
    団地へと進み、物井に通じる里山に入って行く。
    山裾には新芽を出しはじめたシロダモ(白だも)が風に揺れていた。新芽は白く、生長しても葉の
    裏は白い。名前はこれに由来する。
    ある先輩が教えてくれた、”うさぎの耳はシロダモの”…なるほどこれなら覚えやすい。

                       シロダモの新芽

           

     道端にはノゲシ(野芥子)が点々と咲いていた。葉はやわらかくオニノゲシのように触っても
    痛くない。葉がケシの葉を思わせるのでこの名があるという。茎や葉を切ると白い汁が出るので、
    子供のころは”チチグサ”と呼んでうさぎの餌に与えていた。私にとってはなつかしい草だ。春から
    咲きはじめるのでハルノノゲシとも呼ばれる。
    物井駅近くの空地に、小さい花をいっぱいつけたハナヤエムグラ(花八重葎)が見られた。
    ヨ-ロッパ原産の帰化植物だが、あまり多くはないらしい。アカネ科の仲間。

              ハルノノゲシ                ハナヤエムグラ

          

      ほどなく物井駅に着く。

      ちはら台~長柄町周辺  2015.5.4

     ちはら台からロングウッドステ-ション行きのバスに乗り、皿木で降りて小道を下ると里山が
    広がってくる。その日は5月の初め、辺りは瑞々しい新緑の季節を迎えていた。野菜が植えられ
    赤や黄色の花も咲く畑を見ながら歩いて行くと田んぼに出た。田植えは終わったばかり、なみなみ
    と水が張られた山間の田んぼに緑の稲苗が広がりつづく。ここもまた日本の原風景を見るような
    思いがする。

                    長柄町皿木付近の田園風景

             

     向かい側の山裾には、ミズキ(水木)が華やかに辺りを彩っていた。大きく広げた無数の白い花が
    青空に爽やかに映る。新緑を迎えるころの代表的な樹木といっていいだろう。
    名前は、とくに春先に枝を折ると、樹液が水のようにしたたり落ちることからつけられたという。

           山裾に生えるミズキ                ミズキの花

          

     しばらく行くと1軒屋が見えてきた。農家ではないらしい、ふつうの民家のように思える。
    ここに住む人は静かな環境が好きでここに家を建てたのかもしれない。家の近くには巨大な
    数の子のようなシュロ(棕櫚)の花が咲いていた。中国原産と考えられているが、暖地には
    野生化しているものも多く、九州南部のものは自生だとする説もあるらしい。別名ワジュロとも
    呼ばれる。

             農道脇に佇む1軒屋            ワジュロの黄色い花

          

     民家を通り過ぎると前方に広い田園風景が見えてくる。そこから左に道をとり湾曲した林の
    ふちを歩いていると、赤い実を覗かせたウグイスカグラ(鶯神楽)が眼についた。いかにも美味し
    そうだ。実を一つとって口に入れてみたが、意外に酸味がなくたよりない味がした。美味しいと
    いう人もいるが、私はグミや野イチゴの方が好きだ。
    それにしても鶯神楽の名前はどこからきたのだろう…。古名のウグイスカクレが転訛したという説
    があるが、ウグイスが茂みの中を隠れ飛び渡っている姿を、神楽でも舞っているようかのように
    見立てたからか…。この名づけ親は想像力豊かな人というよりは、奇想天外な空想の持ち主なの
    かもしれない…。ウグイスカグラは日本固有種。

                       ウグイスカグラの実

           

     上を見上げると岩壁にヤマツツジ(山躑躅)が咲いていた。朱赤色の花びらが周りの緑の中に
    あって鮮やかだ。とても美しい。岸壁に生えるヤマツツジはなかなか風情がある。
    漢字の躑躅は漢名で”てきちょく”とも読まれる。”てきちょく”とは立ち止まってためらう、躊躇
    するという意味があり、見る人の足を引きとめる美しさからこの漢字が使われたと言われる。
    ツツジの語源は他にもあるらしいが、この説が分かりやすい。

                         ヤマツツジ

             

     山側には白い花をつけたサワフタギ(沢蓋木)やカマツカ(鎌柄)、ミツバウツギ(三葉空木)
    などが咲き誇り、林のふちを彩っていた。
    サワフタギは沢をふさぐように茂る姿からこの名がついたというが、里山の道脇にもたくさん
    見られる。また果実がルリ色に熟し、葉がウシコロシ(カマツカ)に似ていることから、ルリミノ
    ウシコロシとも呼ばれる。長いオシベがよく目立つ。

                       サワフタギの花

             

     カマツカは材が丈夫で折れにくいので、鎌の柄によく利用されたことからつけられた名前。
    また材を曲げて牛の鼻輪をつくったことから、ウシコロシとも呼ばれる。春には白い花、秋には
    赤い実をつける。カマツカとサワフタギの葉の形は良く似ているが、サワフタギは葉の両面に毛が
    あるのにたいし、カマツカはほとんどない。

                       カマツカの花

           

     ミツバウツギは小葉が3個ある複葉で、ウツギに似た白い花をつけるのでこの名があるという。
    ただウツギとは別種のミツバウツギ科に分類される。
    ミツバウツギは他の地区にもたくさん見られるが、千葉県はとくに多いように思える。このコ-ス
    にもいたるところで繁茂していた。花は最盛期でも完全には開かない。6月ごろになると風船の
    ようにふくらみ、先が2~3つに分かれた果実ができる。風に吹かれてゆらゆらと揺れている姿は
    なかなか風情がある。

                      ミツバウツギの花

             

            ミツバウツギの花           ミツバウツギの果実  誉田郊外 

          

     農道を1周して車道に出る手前で、小さな黄色い花を枝いっぱい散らばせたコマユミ(小真弓)
    が眼についた。同属のニシキギ(錦木)は枝にコルク質の翼がはりだしているが、コマユミには
    翼がない。同じニシキギ科のマユミ(真弓)は、この木で弓をつくったことからこの名前があると
    いう。いずれも秋には赤い実をつける。
    コマユミの近くにフジの花が垂れ下がっていた。他の樹木にからみつく嫌われ者だが、紫色の花は
    とても優美。その美しさからたくさんの園芸品種もつくられ、公園に訪れる人たちの眼を楽しませ
    ている。

             コマユミの花                 フジの花

          

     車道を渡り、水路脇の小道を歩いて行くと前方に房総変電所が現れてきた。左向うには車道が
    走り、その先に集落も見える。この辺りは市原市の潤井戸付近の田園になる。

                        房総変電所近くの田園風景

             

     その後民家の横から暗い林道に入り、そこをぬけるとさらに大きい田園風景が広がってくる。
    真っすぐに続く農道をひたすら歩いて行くと、やがてちはら台の駅に着く。

      物井周辺の里山  2015.5.6

     物井周辺も千葉から近いということもあってよく訪ねる。いくつかの散策コ-スがあるが、
    今回は小名木川沿いの農道を歩いた。駅から数分も歩くとのどかな田園風景が広がってくる。

                       物井付近の田園風景

           

     農道に入ったところで出迎えてくれたのが、コゴメウツギ(小米空木)、垂れ下がった小枝に
    ついた無数の白い花が風になびいていた。ウツギに似た小さなを花を米粒に見立ててこの名が
    あるが、ウツギの仲間ではない。葉は互生する。バラ科のココメウツギ属。

                         コゴメウツギ

           

     しばらく歩き横道に入って梅林に行ってみた。随分昔、鮮やかな赤色をした昆虫を見たことが
    あったからである。しかしそこにいたのは名も知らぬ幼虫。木の幹にくっつき緩慢にうごめいて
    いた。もっとも私は昆虫についてはまったくといっていいほど知識をもっていない。ただ、あとで
    何か分かるかもしれないと思ってその姿だけは撮ってきた。

                   梅の幹についていた昆虫の幼虫

           

     道端にはサワフタギ、ニワゼキショウ、ハルジオン、アカバナユウゲショウなどが眼につくが、
    さほど眼新しいものはない。もとの道に戻り山裾の道を歩いて行く。車道を越えてしばらくすると
    ”ホタルの里”と書かれた看板があった。夏の夜空にホタルが飛び交うところなのだろう。

     その先で橋を渡って反対側の道を歩きはじめたとき、田んぼに2羽のカルガモがいるのに気づいた。
    里山の水辺ではよく見られる水鳥だ。いつもは通り過ぎて行くのだが、その日はカメラを向けて
    みた。
    辺りの田んぼの大半は田植えを終えていたが、一部ではその作業をしている人の姿も見られた。
    昔のように人の手で苗を1本づつ植えているのではない、すべて機械で田植えを行っていたのだ。
    作業する人はただ一人、他には誰もいない…田植えも便利になったものだ。

           田んぼにいたカルガモ            機械で田植えを行う人

          

     道沿いの草原ではヒラヒラとチョウが舞っていた。あっちにいったり、こっちにきたり…じっと
    見ていると眼の前の草叢に止まり、何かの蜜でも吸っているのかそのまま動かなくなった。表面の
    羽根はヒョウのような斑紋がある。ヒョウモンチョウの1種かと思われる。

                        ヒョウモンチョウ

           

     物井駅近くの道沿いには満開になったハリエンジュ(針塊)が甘い香りを漂わせていた。
    房のように垂れ下げた白い花穂が清楚に映る。別名ニセアカシア。ふつうアカシアと呼ばれている
    のはこのニセアカシアのこと。北アメリカ原産で、日本には明治初期に渡来した。各地に広く植え
    られている他、野生化しているものもある。この花からとれる蜂蜜はとても美味しい。

                      ハリエンジュの花

          

     ほどなく物井駅につく。

      大網駅~土気駅  2015.5.20

     この日は大網駅から土気駅までの里山を散策することにした。大網駅から車道をしばらく歩き、
    左への小道を上って行くと大竹調整池のところに出る。この調整池の周りには四季おりおり様々な
    花が見られる。

                          大竹調整池

           

     入り口から歩きはじめてすぐ、ノイバラ(野薔薇)が出迎えてくれた。ウツギとともに夏が近い
    ことを思わせる花だ。小枝いっぱいに白い花をつけ、辺りにほのかな香りを漂わせていた。
    枝に鋭いトゲが多いバラ科の落葉低木。まさに野に咲くバラのようにも見える。

                        ノイバラの花

           

     ノイバラの近くにはガマズミ(莢蒾)が白い花を風になびかせていた。上向きに円形の花が
    たくさん咲いているようにも見えるが、一つの塊りの中には小さい花が多数集まっているのである。
    一つの花の直径は5~8ミリしかない。白いガマズミの花びらもまた美しい。
    材が硬いことから鎌の柄に使われ、果実に酸味があることからガマズミという名前がつけられたと
    いう説もあるが、はっきりしたことは分かっていない。漢字の莢蒾の意味も不明。

                        ガマズミの花

           

     道の中程には見事なウツギが咲いていた。初夏を思わせる代表的な花である。この花が咲く
    風景を見ていると、自然に唱歌「夏は来ぬ」の歌詞が口をついてくる。

      ♪卯の花におう垣根に ほととぎす早も来啼きて 忍音もらす 夏は来ぬ~♪

     ウツギはウノハナ(卯の花)の名でも広く親しまれている。この歌詞に「におう」とあるが
    ウツギに匂いはない。この場合の”におう”は華やかに咲いているウツギの姿を雅語的に表現した
    もの。ちなみに”忍音”は、その年に初めて聞かれるホトトギスの鳴き声をいう。

     「夏は来ぬ}がつくられたのは1896年(明治29年)。この歌にはどこか郷愁を感じさせてくれ
    るものがあるからだろう、119年を経た今でも愛され歌われているのである。これからも親から
    子供へ、さらに孫へ歌い継いでいってもらいたいものだ。作詞 佐々木信綱 作曲 小山作之助

    名前の由来は、枝の中心が中空であることから空木の名がついたという。

                         ウツギの花

           

                        ウツギの花

          

     その先の草叢の中で、ナルコユリ(鳴子百合)の花が葉蔭の下から顔を覗かせていた。
    たくさんの花がぶらさがってつく姿を、鳥を追い払う鳴子に見立ててこの名があるという。
    鳴子とは鳥おどしの一種。穀物を野鳥の食害から守るため、小さな短い竹筒を板につけたものを
    掛け並べ、なわを引いて鳴らすもの。古くは引き板と呼ばれた。万葉集にもこの名があるという
    から、ナルコユリの名前も相当古い時代につけられたものだろう。鳴子のイメ-ジを想像すると、
    なんとなくのどかな田園風景が浮かんでくる。
    そういえば鳴子というのは狂言の一つにもあるし、宮城県には鳴子温泉がある。

                         ナルコユリ

           

     道の中程を過ぎたところでハンショウヅルが眼についた。印旛村で出会ったハンショウヅルは
    まだツボミだったが、ここでは赤い花を咲かせていた。半鐘蔓の名づけられているように、下向き
    に咲いた花の形は吊り鐘のようにも見える。実は赤い花弁のように見えるのは萼片で、花はこの
    中にある。山地の林縁や林内に生えるつる性の低木。

                       ハンショウヅルの花

           

     調整池の道もほぼ終わりに近づいた草原で、アカバナユウゲショウ(赤花夕化粧)が明るい
    日差しを浴びていた。野山や道端のどこにでも見られる花だが、よく見るとなかなか可愛い。
    ユウゲショウとも呼ばれるが、オシロイバナもユウゲショウという別名があり紛らわしいので、
    アカバナユウゲショウと呼んだほうがいいだろう。夕化粧とあるがオシロイバナは夕方から
    咲きはじめ、アカバナユウゲショウは明るい昼間から咲いている。この名前の由来は、
    夕方花が開いて朝しぼもものが多いマツヨイグサの仲間と同じ属(アカバナ科マツヨイグサ属)
    になっていることにあるのかもしれない。しかし、なかなかいい名前をもらったものだ。
    山野の湿地に生えるアカバナ(アカバナ科アカバナ属)は葉が対生しているが、アカバナ
    ユウゲショウの葉は互生している。

                       アカバナユウゲショウ

             

     草原にはニワゼキショウ(庭石菖)も群生しとぃた。北アメリカ原産の多年草で、明治中期に
    渡来し、各地に広く帰化している。葉がセキショウに似ているからこの名があるという。ナンキン
    アヤメとも呼ぶ。茎の先に小さな花を次々に開くが、花は1日でしぼむ。

                          ニワゼキショウ

           

     調整池から下りて田んぼ脇の小道を歩いて行く。緑の絨毯のように広がる田園風景が眼に沁みる。
    林のふちには小さい風車のような白い花をつけたテイカカズラやよい香りを放つスイカズラ、
    黄白色の小さな花をつけたゴンズイなどが眼につく。道端にはタンポポ、ハルジオン、キショウブ、
    ノハカタカラクサなどが咲き乱れる。山裾には民家点々。

                     法光寺付近の田園風景

          

     眼の前に白いチョウがヒラヒラ飛んでいたがハルジオンの花に止まった。モンシロチョウの
    ようだ。春から秋にかけてふつうに見られるチョウだが、カメラを向けてみた。どこか愛らしく
    見えたからである。

                    ハルジオンに止まるモンシロチョウ

             

     その後山間の道を上り畑が広がる丘の道を通り抜け、車道からうす暗い林道にに入って行く。
    鬱蒼と杉が林立する道をぬけると小さな池のあるところに出る。池は釣り堀になっているらしく、
    4~5人の男たちが釣りをしたり雑談したりする姿が見られた。ここを通るときよく眼にする光景で
    ある。

                       釣り堀になっている小さな池

          

     池を過ぎてほどなく、草叢に赤いイチゴが眼に入った。ヤブヘビイチゴ(藪蛇苺)である。
    ヘビが出そうなところに生えるのでこの名がついたといわれる。ヘビイチゴより果実は大きく
    光沢があり美しい。
    いかにも美味しそうに見えるが甘味はなく不味い。ただ毒はないので食べられなくはない。

                       ヤブヘビイチゴの実

           

     少し疲れてきたので草叢に座って休憩する。ぼんやりと辺りを見回していたがふと田んぼに眼を
    やったとき、オタマジャクシが群れをなしていたのに驚いた。じっとしているのもあれば動いて
    いるのもいる。近づくと一斉に動きはじめるが、その距離はわずか、また止まってしまう。しかし
    オタマジャクシのこれだけの群集に出会うのは初めてだ。あちらにもこちらにも塊りをつくって
    いた。
    オタマジャクシの語源は、滋賀県の多賀大社にあるお多賀杓子が転訛したお玉杓子が、カエルの
    幼生であるオタマジャクシの呼称になったとされる。そういえば、オタマジャクシは形がまるくて
    柄のついた汁杓子の形によく似ている。

                    田んぼに群れをなしていたオタマジャクシ

           

     林道を出て左への道をとる。大きな水田風景が広がり遠くに土気の町が見えてくる。印旛沼に
    注ぐ鹿島川はこの辺りから流れ出している。田園地帯も鹿島川に沿って土気から千葉郊外へ、
    さらに佐倉周辺までつづく。私の散策コ-スでもある。植えられて間もない緑の稲苗が瑞々しい。


                         土気付近の田園風景

             

     辺りにはホトトギスやウグイスの鳴き声が聞こえ、新緑に初夏の花々が眼を楽しませてくれる。
    ”眼に青葉 山ホトトギス初かつお”…そんな気分になる。
    林のふちにはたくさんの花をつけたスイカズラ(吸葛)がぶら下がっていた。なかなかいい香りだ。
    名前は花の奥に蜜がたまっていて、吸うと甘いので吸葛と呼ばれるようになったという。また、
    冬も葉の一部が残っているのでニンドウ(忍冬)の名もある。山野にふつうに見られるつる性低木。

                          スイカズラの花

             

     農道から車道に出て、右に歩いて行くとまもなく土気駅に着く。

      大佐倉~佐倉  2015.522

     京成電車の大佐倉駅を降りて線路沿いに歩き、民家の間をぬけて横道に入ると山間に水田風景が
    広がってくる。道は曲がりくねり、突き辺りの上はゴロフ場になっている。山裾にはウツギや少し
    花を落としかけたガマズミが茂り、足元にはハルジオン、タンポポ、オオジシバリ、ノアザミなど
    が咲き誇る。入り口遠くには民家も見られたが、奥へ行くと山に囲まれた水田が広がるだけの
    風景になる。そんな風景を見ながら歩いていると、クサイチゴ(草苺)の赤い実が眼についた。
    白いやや大きな花のわりには実は小さい。一粒口に入れてみたがまずまずの味、水気は少ない。

                        クサイチゴの実

             

     中程に来たところで、今度はナワシロイチゴ(苗代苺)の花が咲いていた。果実のように見える
    がこれは花である。あと3週間~1ヶ月もすれば実をつけるだろう。ナワシロイチゴの実はそのまま
    食べても、ジャムにしても美味しい。

                       ナワシロイチゴの花

           

     水田を1周しその先にあるもうひとつの水田に入ったとき、眼の前にアオスジアゲハが飛んで
    いた。木から下へ、また木へと忙しく飛び回っている。じっと見ているとウツギの花に止まった。
    と、思ったらすぐ他の花に移動する。スピ-ドも早くなかなか捉えにくい。しかし何回かカメラを
    向けているうち、何とか撮ることができた。このアオスジアゲハ、その名のとおり黒い羽根に青い
    紋様がとても美しい。

                   ウツギに止まるアオスジアゲハ

             

     ここの水田も1周してみたがとくに目新しいものは見られなかった。その後山道を上りゴルフ場の
    そばを通って車道に入り佐倉駅に向かった。

      南酒々井~印旛衛星管理組合~物井  2015.5.26

     南酒々井駅から佐倉方面へ続く小道を歩いて行くと、樹木にはい上っているテイカカズラ
    (定家葛)が眼に止まった。巴状にねじれた花が無数に咲き誇り、その形は小さな風車のようにも
    見える。
    名前の由来は、式子内親王を愛した鎌倉時代初期の公家・歌人である藤原定家が死後も彼女を
    忘れられず、ついに定家カズラに生まれ変わって彼女の墓にからみついたという伝説を脚色した、
    能の演目”定家”の物語に基づく。なるほどそのイメ-ジのように、常緑のテイカカズラは力強い
    生命力を感じる。ただ、このテイカカズラは彼女の墓に非ず、樹木にからみついていた。

                       テイカカズラの花

           

     森の小道をぬけると大きな水田風景が広がってくる。農家の人たちが水田で作業している姿を
    眺めていると、ちょうど総武線の電車がやってきて成田方面へ走って行った。この辺り成東と
    成田方面への電車の分岐点になっている。

                水田で作業している人たちと、そばを走る電車

             

     真っすぐ進めば佐倉へ通じるが左へ曲がり、民家が点在する山里に入って行く。ここもまた
    水田が帯のように続くが、ところどころ葦が埋める休耕田も見られる。のどかな山里だ。

                      南酒々井付近の山里

          

     そんな風景を見ながら歩いているとき、明るい日差しを浴びたキキョウソウ(桔梗草)が眼に
    止まった。キキョウは漢名の桔梗を音読みにしたもの。万葉集の山上憶良の歌”秋の七草」に
    出てくる朝貌の花はキキョウではないかといわれる。キキョウは昔から日本にあるものだが、
    キキョウソウは北アメリカ原産の1年草で各地に帰化している。花が葉の付け根に1~3個づつ
    段々になってつくことから、ダンダンギキョウとも呼ばれる。

                         キキョウソウ

             

     山里をぬけて車道をしばらく歩き狭い山間の道に入って行く。道沿いにはタンポポ、ハルジオン、
    アカバナユウゲショウ、オオジシバリなどが繁茂する。上を見上げると熟したモミジイチゴの実が
    ぶら下がっていた。3~4個食べてみたがとても美味しい、みずみずしい甘味が口中に広がる。
    野イチゴの中では一番美味しいイチゴだ。また2~3個口に入れる。

                      モミジイチゴの実

             

     林のふちにはノアザミ(野薊)が咲き誇り、ドクダミ(蕺草)が林内を埋めていた。アザミの
    仲間は見分けるのが難しいが、春から咲きはじめ、頭花の下側を包む総苞をさわるとベタベタ
    粘るので分かりやすい。
    アザミの語源を調べてみたら、薊という漢字には”魚の骨”のような刺のある草という意味を現して
    おり、文字通り葉先には大きい切れ込みがあり、先の方に鋭いトゲがある…。もうひとつはトゲが
    あって刀のように刺す草…とあった。なるほどな、と思う。
    ドクダミは毒や痛みに効くということから”毒痛み”が転じたものといわれる。民間薬としてよく
    利用され、10種の薬効があるという意味から、十薬とも呼ばれる。白い花は清楚に見えるが、近く
    を通るとイヤな臭いが鼻をつく。

             ノアザミの花                ドクダミの花

            

     山道をショ-トカット、畔道から印旛衛生管理組合の広場を通り、車道を渡って林道に入って行く。
    山裾には黄色いコウゾリナ(髪剃菜)の花が繁茂するほどに咲いていた。通り過ぎようとしたが
    カメラを向ける。
    コウゾリナは茎や葉にかたい毛があり、さわるとザラザラして、手が切れそうな感じがすること
    からこの名がついたという。5月頃から咲きはじめ10月頃まで花をつけている2年草。

    コウゾリナのそばでは、イボタノキ(水蝋の木)が小さい白い花を多数咲かせていた。
    イボタノキは秋になると樹皮上にイボたロウムシがつき、これから蝋燭の原料や吐血剤などに
    用いる”いぼた蝋”を採るという。

            コウゾリナの花              イボタノキの花

          

     その後高速道路の下をくぐり、車道に出てひたすら歩き物井駅に着く。

      ちはら台~滝口~古都辺~ちはら台  2015.5.30

     ちはら台からロングウッドステ-ション行きのバスに乗り滝口バス停で下車、いくつかの山道を
    折れ曲がりながら歩いて行く。山裾にはテイカカズラ、ウツギ、マユミ、ニワトコ、スイカズラ、
    ヤマグワなどの木々が茂り、コウゾリナ、アサガオ、ムラサキツメクサ、ドクダミ、ヤブマオなど
    が道沿いを縁どる。
     やがて古都辺取水場が見えるところに出ると、山間の風景が現れてくる。しばらくは谷津のよう
    なところが続くが次第にのどかな田園風景が広がる里山だ。
    5月4日の時は皿木から右に降りて行ったが、今回はその手前で左手の丘陵から反対側の里山に
    出たことになる。

                   古都辺取水場とその周辺の風景

          

     山裾の小道を歩いていると、草叢にポツンとツユクサ(露草)が咲いていた。小さいが青色の
    花びらが鮮やかだ。とても可愛い。舟形の苞から青い花が1個ずつ開き、半日でしぼむ。イメ-ジ
    通りの名前をもらっている。

                         ツユクサの花

           

     道端にはひらひらとヒョウモンチョウが舞い、林の蔭ではトンボが飛び交っていた。このトンボ
    軽やかに飛行していてもすぐ草木に止まりじっとしている。撮りやすいトンボだ。
    ニホンカワトンボのように思われる。このトンボの雄同士はなわばりを守るために、空中で激しい
    闘争をするという。淡いオレンジ色の羽根が美しい。

                     ニホンカワトンボの雄

            

     その先でまた同じようなトンボが眼に止まった。しかし今度は羽根の色が薄い、ほぼ透明だ。
    ニホンカワトンボの雌かもしれない。

                     ニホンカワトンボの雌

          

     風景は谷津から水田地帯に変わってくる。家らしきものはどこにも見当たらない、人工的なもの
    もない…と思っていたら鉄柵でつくられた器具が田んぼ脇に置かれてあった。農作物を食い荒らす
    イノシシやシカを捕獲するワナだろう。最近他の田んぼでも時々見かける。

                       イノシシのワナ

          

     眼の前にチョウが飛んできてクワの葉に止まった。小さなチョウで一瞬”蛾”かと思ったが、
    セセリチョウ科の一種かと思われる。コキマダラセセリに似ているがよく分からない。

                 セセリチョウ科の一種と思われるチョウ

           

     もう1匹、今度はムシかハチのようなものがブ~ンと飛んでドクダミの花に止まった。図鑑で
    調べてみたところヤマトシリアゲに似ている。シリアゲムシ科の一種で弱った昆虫の体液を吸う
    らしい。

                        ヤマトシリアゲ

           

     再び葦に覆われた谷津のような湿地が現れ、その道沿いを歩いて行くと何か作業している年配の
    男性に出会った。前方の道は刈り取られた竹でふさがれているが通れないことはない。彼に
    「こんにちは}…と言いながら通り過ぎようとしたが、
    「通れるかな」…と声がかかった。
    「大丈夫です」…そう言って先に進もうとしたが
    「散歩ですか…それとも何か?」…私がザックを背負っていたためか、そう聞かれた。
    「花を見て回ってるんです」…答えると
    「花はもう遅いでしょう…もう少し前なら色々な花が見られたのに」
    「そうですね、今はちょうど端境期で眼新しいものはありませんね}
    「この辺りにゃ~珍しい花が見られた、随分前の話だがね、キンラン、ギンラン、夏から秋に
    かけては
    ヤマユリ、ツルニンジン、それにナンバンギセルも…しかし今はみな無くなってしもうた、採られ
    たんですよ」
    男性は植物にも詳しいようだ。私はこの通りを何回か歩いているがそうした植物に出会ったことは
    ない。随分心ない人がいるものだ.…軽い憤りを覚えたが話を変えた。
    「そうですか、ナンバンギセルもあったのですか…ところで何をされているのです?」
    「荒れ地になっているところを農地に戻そうと思ってるんです、ここから見える荒れ地はすべて…
    他にも手伝ってくれる人がいるのでね、まあボチボチやります」
    「大変な作業ですね…随分時間がかかるでしょうが頑張ってください」
    また来てください、いつもこの辺りにいますから」

    私は明るい気分になった。こんな人もいるのだと思った。減反減反と言われ続けた農家の人たちを
    元気づける話だ。こうしたことが地方創生のひとつになればと願う。

     この辺りは山水が流れ落ち小さな川が通っている。山裾にはアブラチャンが若い実をつけていた。
    早春の黄色い花のときはよく目立つが、この時期になるとひっそりとしているアブラチャンだ。
    アブラチャンのチャンは瀝青のことで、昔、果実や樹皮の油を灯油にしたことによる。

                            アブラチャンの実

               

     そばの木の葉には、小さいアマガエルがたくさんいた。じっとしていてほとんど動かない。
    ニホンアマガエルかもしれない。足元にもカエルがいた。こちらは褐色でやはりじっとしていた。
    ツチガエルのようにもヤマアカガエルのようにも見えるがよく分からない。

             ニホンアマガエル              ツチガエル?

          

     山道をぬけると広大な田園地帯に出る。山間には集落も見える。道もアスファルトが敷かれ
    農作業車も通れるほどになっている。その道端の水路脇から山裾辺りを黒いアゲハチョウが
    飛んでいたが、スイカズラの花に止まった。止まりながらも羽根はヒラヒラさせている。
    一瞬クロアゲハかと思ったが尾が長い。オナガアゲハのようだ。よく似たものにジャコウアゲハ、
    アゲハモドキもいるというが、オナガアゲハのように思われる。

                       オナガアゲハ

           

                         オナガアゲハ

          

     その後浅間神社から村田川沿いを歩き、ちはら台駅に着く。

     これで千葉の里山散策は終わりにしたい。次は千葉の里山散策に移る予定。


                             千葉の里山散策   ―了―

                                2015.6.23 記

                          私のアジア紀行  http://www.taichan.info/