千葉の里山散策 

                                
2015年6月~8月
                                
2016年6月~8月

                          
 クヌギの樹液を吸うオオスズメバチとルリタテハ

           

     季節は梅雨に入りやがて真夏を迎える。春の野山を彩っていたスプリングエフェメラルは
    いつのまにか姿を消し、植物も夏の装いに移り代わってゆく。トンボやチョウは活発に動きはじめ、
    南方からやってきたオオヨシキリは草場の蔭でギョ、ギョ、ギチギチ、チカチカとやかましく鳴き
    たて、チョットコイ、チョットコイとコジュケイの大声が山間に谺する。ウグイスやホトトギスも
    負けてはいない、よく透る澄んだ声が辺りに響き渡っている。
     この稿は春に訪ねたところとさほど変わらないが、同じ場所でも季節の移り変わりによって風景も、
    そこに棲んでいる動植物も変化していく。とくに植物はそうである。
    暑い盛りではあるが、これからもカメラをもって千葉の里山を散策したいと思っている。

      物井~物井  2015.6.02  2016.5.25  2016.7.10

     千葉から近いこともあってまた物井周辺を散策した。この時期は春から夏に移り変わる植物の
    端境期になっているためか、野草の花は少なくなりウツギやガマズミの花もすでに姿を消して
    いた。しかし、ハルジオンはまだ華やかに咲いている…と思ったらそうではなかった。
    ヒメジョオン(姫女苑)が辺り一面に幅をきかせていたのである。どちらも同じ北アメリカ原産で
    非常によく似ているが、ハルジオンは茎が中空で、葉の基部が茎を抱くのに対し、ヒメジョオン
    は茎に白い髄がつまっていて、葉の基部は茎を抱かない。またハルジオンは多年草だが、
    ヒメジョオンは1~2年草である。そのヒメジョオンにヒラヒラと黄色いチョウがやってきた。
    モンキチョウのようだ。羽根は淡い黄色、前翅の黒い縁どりの中に白い斑紋がある。この時期、
    モンシロチョウやキチョウと共によく見られるチョウだ。

                 ヒメジョオンの花にとまるモンキチョウ

           

     横道にそれて梅林に入ってみた。何か昆虫でもいないかと思ったのである。最初に眼に
    したのは黒い小さな虫一匹だけ、背中に白い斑紋が並んでいた。ヨコヅナサシガメかもしれない。
    別の木には羽根のある大きな蚊のような虫が止まっていた。ガガンボの仲間のように思える。
    梅の実は橙色になり下にもたくさん落ちていたが、収穫する人はいないようだ。梅は古くに中国
    から渡来したものだが今では日本全国に広く栽培され、果実は梅干しや梅酒に使われる。

                          梅の実

           

            ヨコヅナサシガメ               ガガンボの仲間

          

     もとの道に戻る。稲葉は30cmぐらいに伸び、水田をみずみずしい緑色に染めていた。辺りに
    カエルの鳴き声が響く。のどかな散歩道だ。

                      瑞々しい緑色に染まる水田

             

     山際には小さな赤い実をたくさんつけたニワトコがあった。春には淡黄白の花をつけていた
    ものが赤い果実に変わり、枝先を華やかに飾っていた。ニワトコは枝や幹の黒焼きが骨折、
    打ち身などの薬になるといわれ、昔から日本人になじみの深い樹木である。

                      ニワトコの赤い果実

          

     その先の藪の中でノブドウの葉に止まっているチョウが見えた。黒い羽根のふちと中に白い
    模様が並んでいる。羽根をすぼめると色鮮やかな白と赤褐色の模様が見える。なかなか
    美しい。よく眼にするチョウだが名前は分からない。調べてみるとイチモンジチョウと分かった。
    スイカズラやヒョウタンボクを食草にしているらしい。

                       イチモンジチョウ

           

                      イチモンジチョウ

          

     物井からの散策コ-スはいくつかあるが、2016年の5月25日は物井駅から佐倉方面への里山を
    歩いた。駅の裏側から新しく整備された道を歩いていたとき、眼の前を野鳥が横切りガ-ドレ-ル
    の上に止まった。そして大声でさえずりはじめた。「ピッピチュ・ピ-チュ・ピリチュリチュ-」…
    なかなかいい声だ。同じ調子で何回も繰り返している。ホオジロだ。冬の間はチッ・チッ・チッ・
    としか鳴かないが、こんな元気のいい声を聞くのは初めてだ。
    20mぐらいまで近づきカメラを向けた。さえぎるものは何もない、当然こちらに気づいているはず
    だが逃げない。鳴くのに夢中になっているように思える。ホオジロは野鳥のなかでも比較的人間に
    慣れているのかもしれない。

                   ガ-ドレ-ルの上でさえずるホオジロ

           

     田んぼ沿い土手には、ヒナゲシと思われる赤い花が点々と生えていた。グビジンソウ(虞美人草)
    とも呼ばれる。ヨ-ロッパ原産ケシ科の越年草で、園芸種として植えられていたものが逃げてきて
    野生化したのだろう。
    山道から再び田園地帯に出て歩いていたとき、民家の前でブラシノキが眼についた。長いオシベ
    がよく目立ち、ブラシのように見えることからこの名がつけられたという。フトモモ科の常緑低木~
    小高木で原産地はオ-ストラリア。

               ヒナゲシの花                ブラシノキの花

          

     帰りの道で、上空を猛禽類の鳥が飛んで行き樹木の上に止まるのが見えた。胸から腹にかけて
    横縞がある。サシバらしい。春に日本にもどってきて里山で繁殖、秋になると越冬地の東南
    アジアやニュ-ギニアに渡って行くという。そういえば最近、里山でサシバを見ることが多い。

                       樹木に止まるサシバ

           

     帰途に向かい物井駅近くになったところで、ヨシ原からオオヨシキリの鳴き声が聞こえてきた。
    ギョギョ、ギチギチ、チカチカ…何とも騒がしい鳴き声だ。ところがこのオオヨシキリ、人間が
    近づくとピタリと鳴き止んでしまう。あの大声で鳴いている最中にどうして気配を感じるのか…。
    なかなか姿も見せてくれないオオヨシキリだがこの日は違った。ヨシの葉陰から可愛い顔が
    のぞいている。一瞬鳴き止めたが、また大声を上げはじめた。距離は20mぐらいか、私は木陰
    からそっとカメラを向けた。
    オオヨシキリは春の終わりから初夏にかけて日本にやってきて、秋には越冬地の東南アジアに
    渡る渡り鳥である。

                     鳴き声を上げるオオヨシキリ

             

                ヨシの葉陰から顔をのぞかせるオオヨシキリ

          

     物井駅に戻ったが早い時間だったので、ムクロジの里山まで行ってみた。地元のボランティアに
    よって整備された谷津田である。ぶらぶら歩いていると、小さな池の上を飛んでいるトンボが眼に
    止まった。腰の部分が白く空いているコシアキトンボだ。見ていると池の端から端まで行ったり
    来たり、ときどき空中に留まりホバリングしたりしている。侵入者が入ってこないように見張って
    いるかのようにも見える。コシアキトンボは縄張り争いのすさまじいトンボなのだそうだ。
    飛ぶスピ-ドも非常に速い。ところがなかなか止まってくれない。待つこと5分、ようやくイネ科の
    穂に止まってくれた。ここは池の全てが見渡せるところである。このコシアキトンボ、ほんのひと
    時休憩したあと再び池の周囲を巡回しはじめた。

                        コシアキトンボ

           

     2016年7月10日このムクロジの里近くを歩いていたとき、パタパタと忙しく飛び回るチョウが
    眼についた。ウラギンシジミだ。よく見かけるチョウだが、止まると翅を閉じていることが多い。
    ところがこの日は翅を開いたまま草の葉に止まった。なかなか色鮮やかなチョウだ。

    この先の道端では別のウラギンシジミが白い翅を見せながら止まっていた。よく見ると周りに
    4~5匹の小さな虫の死骸が散らばり、それに無数の蟻がたかり、このチョウもその一つをなめて
    いたのである。
    カメラをスレスレに近づけてもまったく動じない。エサを食べるのに夢中なのだ。しかし花の蜜に
    集まるチョウが多いなかで、こんなチョウもいることを初めて知った。

          翅を開いたウラギンシジミ            翅を閉じたウラギンシジミ

          

      千葉郊外都川沿い~いずみ自然公園~鹿島川沿い農道  2015.6.15  2016.6.19

     2ヶ月ぶりにこのコ-スを自転車で走ってみた。この日はすでに梅雨に入り曇り模様だったが
    雨の心配はなさそう。千葉から郊外に出て都川沿いの農道を走る。平和公園の手前で林の縁に
    ガクアジサイ(萼紫陽花)が咲いていた。植えられていたものがここに飛んできたのだろう。
    今はアジサイの季節、梅雨空にとてもよく映える。まわりにあるのは装飾花、花は装飾花に
    囲まれた中にある。ガクアジサイは暖地の海岸付近に生える落葉低木。古くから園芸化され、
    庭や公園などに植えられている。
    平安中期の歌人だった源順(みなもとのしたごう)は、白楽天の詩からアジサイとはまったく別物の
    植物「紫陽花」を引き出してきて、これをアジサイに当てたという。

                        ガクアジサイの花

             

     いずみ公園近くの藪のなかに黒いトンボが眼に入った。暗い藪の中をスイスイと飛んでいるか
    と思うとすぐに止まる。近づくと一旦逃げるがまた他の野草に移る。暗いところが好きらしい。
    ハグロトンボと思われる。
    近くの樹木の葉には、黒と黄色の縞模様をした小さな虫がついていた。ヨツスジハナカミキリの
    ようだ。ノリウツギやクリ、アカメガシワ、リョウブなどの花の蜜や花粉を食べ物にしている
    らしい。


              ハグロトンボ               ヨツスジハナカミキリ

          

     いずみ公園の沼にアサザ(荇菜)が咲いていた。池や沼などに生える多年草の水草で花は
    1日花。朝早く開き、昼過ぎには閉じてしまう。いかにも儚い感じだ。触ればポロリと落ちそうに
    見える。
    漢方で解熱、利尿、消痰などに用いられる荇菜(コウサイ)と呼ばれる薬があるというが、語源は
    そこからきているという。若葉は食用にされることもある。

                         アサザの花

           

     2016年6月19日再びいずみ公園を訪ねた。都川沿いの農道を走ること2時間、いずみ公園の池
    の前に出てみると、水面をスイスイ泳いでいる水鳥がいた。オシドリだ。あわててカメラを向けた
    がすでに遅し、オシドリは対岸の暗い樹木の下に入って行った。しかしわずかにその姿が見える。
    かなり遠いがレンズをいっぱいに伸ばし、倒木の上で休んでいるオシドリを何とかカメラに収める
    ことができた。

                      倒木の上で休むオシドリ

           

     私は何回もこの公園に来ているが、オシドリはいつも対岸の暗い陰にいて.、そこから出てくる
    ことはなかった。ところが椅子に座りじっと水面を眺めていたとき、再びオシドリが現れたのだ。
    しかもこちらにやってくるではないか…。オシドリは人の影を見るとすぐに逃げてしまう警戒心の
    強い野鳥だと思っていたが、この日は曇り空で人通りも少ないということもあってか安心して姿を
    現しているように見える。その姿は実に美しい。しかしこれは夏羽のオス、冬羽はもっと眼の覚め
    るような鮮やかな色をしているという。オシドリは池面の中央からさらに近づいてきた。

                   水面を泳ぎながらやってくるオシドリ

           

                   水面を泳ぎながらやってくるオシドリ

          

     そして、何とこちらの岸の上に上がってきたのだ。気づかなかったがもう1羽オシドリが岸に
    いたのである。ツガイかもしれない。この岸にいるカルガモやマガモは何度も見ているが、
    オシドリは珍しい。2羽を撮ろうとしたが1羽が離れてしまったため、杭の上に止まった1羽に
    カメラを向ける。このオシドリ羽づくろいしたりこちらを振り向いたりしていたが、その後は
    しばらくの間杭の上でじっとしていた。何を考えていたのだろう…。

                      杭の上に止まるオシドリ

           

              羽づくろいしたり、こちらを振り向いたりするオシドリ

          

     いずみ公園の裏側の農道に出ると、草叢にムラサキカタバミが見られた。周りの緑のなかに
    赤い花びらがよく目立つ。江戸時代に観賞用として日本に入り、今では広く野生化している。
    繁殖力が非常に強い。同じ南アメリカ原産のイモカタバミによく似ているが、こちらは花びらの
    中の赤色が濃く、葯が黄色であることから区別できる。

            ムラサキカタバミ           イモカタバミ 誉田郊外にて

            

     山間の農道から東金街道をしばらく走り、鹿島川沿いの農道に入って行くとさらに大きな
    水田地帯が広がる。辺りに見えるのは取水場の建物と鹿島川に架かる橋だけ、民家らしきところは
    どこにも見えない。サイクリングには気持のよい道だ。そんな風景を見ながら走っていると、
    小さな赤い実の塊りが眼に入った。クマヤナギ(熊柳)だ。随分前この道で見たことがある、久し
    ぶりに出会う。
    名前は柳とあるがヤナギではない。山地に生える落葉つる性の木である。つるはかたく丈夫で、
    紫色を帯び、ほかの木にからみついて高く伸びる。実は完熟すると食用になり、果実酒などに
    利用される。茎が熊のように強く、葉がヤナギに似ていることが名前の由来だという。

                       クマヤナギの赤い実

           

     やがて山裾に民家が現れてくる。ここで農業を営み生活している農家だろう。広大な緑の水田と
    赤い屋根とのコントラストが美しい。思わずカメラを向ける。

                        山裾に建つ民家

           

     道端にはシロツメクサ(白詰草)が繁茂していた。クロ-バの名でも親しまれている草だ。
    江戸時代にオランダから送ってきたガラス器の間にこの草を乾燥したものが詰めてあったことから、
    詰草の名がついたといわれる。明治以降に牧草として導入され、今では至るところで野生化して
    いる。同じヨ-ロッパ原産で色が赤いものはムラサキツメクサ(別名アカツメクサ)と呼ばれる。

                シロツメクサ          ムラサキツメクサ  運河の草原で

            

     ゼニアオイ(銭葵)も咲いていた。農家の庭先に植えられていたものが種子がこぼれて運ばれ、
    自然に生えたものだろう。緑の草原に色鮮やかな赤がよく映えている。
    ヨ-ロッパ南部の2年草で、江戸時代に渡来し栽培されたらしい。私はスペインの草原で野花と
    して咲いていたゼニアオイをみたことがある。南国生まれだが日本の風土にもよく合うのだろう。
    名前の由来は、花の形を銭に見立てたものだという。小判ではなく小銭だろうがなかなか美しい
    銭である。

                          ゼニアオイの花

             

     さらに進んだ先では、田んぼの道沿いを覆うかのようにワルナスビ(悪茄子)が幅をきかして
    いた。その名のように茎や葉には鋭い刺が多く、農家からは厄介者として嫌われている草だ。
    北アメリカ原産の多年草で、昭和の初めに関東地方で気づかれた。繁殖力が強く、現在では
    暖かい地方に広がっている。ナス科に属し、名前がワルナスビとつけられた理由も分かるような
    気がする。
    上を見上げるとアカメガシワ(赤芽槲)の花が咲いていた。新芽が赤いことから赤芽の名がある。
    昔はカシワと同じように葉を食器がわりに使ったという。林の縁で幼木が眼につくが、成長する
    と高さ5~10m位になる。

              ワルナスビの花                 アカメガシワの花

            

     集落が見えてきた。この辺り若葉区更科町になる。水田に沿って農道が通り家々が点在する。
    この風景も今まで走ってきたところも、千葉市郊外に広がる農村地帯の1角である。

                      千葉市若葉区更科町の風景

          

     車道を走り再び農道に入ったところで、ムラサキシキブ(紫式部)の花が眼についた。
    果実の美しさを紫式部にたとえた名前だといわれるが、すばらしい名前をもらったものだ。
    植物の名前には面白いものがたくさんあるが、実在した人物からつけられた名前はムラサキシキブ
    以外にはないだろう。この名付け親もまた想像力豊かなロマンチストにちがいない。

                       ムラサキシキブの花

           

         ムラサキシキブの果実 印西市                ムラサキシキブの花

            

     山裾に眼をやるとホタルブクロ(蛍袋)が群がるように咲いていた。梅雨時期から見られる花で
    ある。名前の由来は、この花のなかに子供が蛍を入れて光らせて遊んだとか、花の形を提灯に
    たとえて、提灯の昔の呼び名”火垂る”をあてたものではないかとか、という説があるらしい。
    なかなか面白い、的を得た名前のように思う。昔から親しまれてきたのか、チョウチンバナ、
    ツリガネソウ、トックリバナ、アメフリバナ、ボンボンバナ、ホタルグサなど、ホタルブクロの
    特徴をよく捉えた方言名もあって楽しい。花の色は白いものが多いが赤いものもある。

                       ホタルブクロ

           

           ホタルブクロの花の中            赤いホタルブクロの花

          

     民家近くの林に、緑白色の小さい花を多数つけたマサキ(柾)があった。本来は海岸の近くに
    自生する常緑の木だが、刈り込みによく耐え丈夫なので生垣によく利用される。
    このマサキも植えられていたものが移動してきたのかもしれない。小さい花をたくさんつけた姿は
    なかなか華やかに見える。マサキの下を見るとケムシがのろのろと這っていた。チョウの幼虫かも
    しれないがよく分からない。

               マサキの花                  チョウの幼虫?

          

     農道から車道に上ったところの空地に、淡い紅色の花をいっぱいつけたネムノキがあった。
    とても華やかだ。ネムノキの仲間は南国に多い。インドや東南アジア、ボルネオなどでもよく眼に
    している。この花を見ると私は、
    ♪ね~むの並木を~お馬のせ~なにゆらゆらゆらと~♪…藤浦洸が作詞、古賀政男が作曲、
    高峰三枝子が歌っていた「南の花嫁さん」を思い出す。いかにものどかな南国の情景が思い
    浮かぶような歌である。
    夕方になると葉は小葉を閉じて垂れ下がり、眠ったようになることからネムノキの名があるという。
    マメ科の植物は睡眠運動するものが多い。ネムノキの他にクサネム、オジギソウ、クロ-バなど。

                       ネムノキの花

           

     スポ-ツ公園に向かう途中、藪の中にビヨウヤナギ(美容柳))が眼についた。
    中国原産の半常緑小低木で古くから庭や公園などに植えられている。名前の由来は葉が柳に似て
    いて、花が美しいからといわれる。
    ビヨウヤナギの近くにはキンシバイ(金糸梅)もあった。花の形が梅に似ており、色が黄色である
    ことが名前の由来。二つの花はよく似ているが、キンシバイは雄しべが花弁より短いのに対し、
    ビヨウヤナギは雄しべが花弁の外に長くつきだし、葉は十字対生になっている。

              ビヨウヤナギ                 キンシバイ

          

     その後御成街道を通り、再び都川沿いをひたすら走って千葉市内に戻る。

      誉田郊外~高田方面  2015.6.18  2016.7.05

     再び誉田郊外に出かけた。誉田駅から民家の間をぬけて山道にさしかかったとき、一瞬アレッ!
    と思った。田んぼ脇に立っていた案山子がなかったのだ。稲葉が伸びはじめるこの時期は、カラス
    や野鳥もイタズラをしないのだろう。すこし寂しい気はしたが、秋の稲穂が実る頃にはまた置かれ
    るにちがいない…そう思いながら奥へと入って行った。

                     案山子が置かれてあった付近

             

     木々が生い茂る山道から明るい道に出たところで、たわわに赤い実をつけたコウゾ(楮)が眼に
    ついた。実はとても美味しそうに見えるが、さほど美味しくはない。酸味がなく物足りない味が
    する。和紙の原料として利用されているコウゾの繊維は製紙原料のなかで最も長く、しかも強靭で
    よくからみあうので、強い紙をつくるのに最適だといわれている。自生のものをヒメコウゾと呼ぶ
    こともある。クワによく似ているが、コウゾのほうが葉柄が短い。

     古くから伝わる手漉き和紙は製品の良さとともに伝統的な製法の技術が高く評価され、2009年
    には石州和紙(島根県)がユネスコ無形文化遺産に登録された。そして昨年2014年には細川紙
    (埼玉県)と、本美濃紙(岐阜県)が新たに加わっている。
    ちなみに私の小中学の同窓生KM氏は、石州和紙の工芸士(人間国宝)として今なお手漉き和紙
    作りに励んでいる。詳しくは、当ホ-ムペ-ジの「ふるさとのお国自慢」の項に掲載。

                         コウゾの実

           

     数軒の民家が立ち並ぶ間から林道を下って行く。藪の中を流れる村田川を横切って坂道を上り
    杉林をぬけると、穂状に小さな花をつけたオカトラノオ(岡虎の尾)の群落が眼に飛び込んできた。
    4月の後半にイカリソウが繁茂していた丘陵の斜面である。まったく同じ場所に、今度はオカトラ
    ノオが広がっていたのである。しかしこれだけ群落するオカトラノオに出会うのは初めてだ。夢中
    になってカメラを向ける。
    名前の由来は、垂れ下がった花穂を虎の尻尾に見立てたものだという。花は白いがホワイトタイガ-
    か…それとも花の形だけから虎の尾をイメ-ジしたのか…。

                       オカトラノオの群落

           

                         オカトラノオ

            

     道端にはカタバミ(傍食)がたくさん咲いていた。どこにでも見られる多年草で珍しくはないが、
    よく見るとなかなか可愛い。小さな黄色い花をせいっぱい広げて太陽の光を浴びている。
    傍食の名前は葉が睡眠運動をし、夕方になって閉じると一方が欠けて見えることによる。
    カタバミの仲間は葉が独特の形をしており、他の植物と見分けやすい。世界中に分布している。

                       カタバミの花

           

     丘陵を下り高田公民館を過ぎた道路脇に、コマツナギ(駒繋ぎ)が群生していた。穂状に赤い花
    をつけてまっすぐ立っている。花は下から咲き上がる。一見草のように見えるが低い樹木である。
    駒は小馬のこと。根や茎が馬をつないでおいても抜けないぐらい強いのでこの名があるという。
    ホントにそうなのかな…。今の時代にいくら想像力をふくらませてもこのような名前は思い浮かば
    ないだろう。のどかな当時の時代背景が偲ばれる。

                        コマツナギの花

           

     車道から田んぼ脇の小道に入るとネジバナ(捩花)が眼についた。ポツンと1輪咲いているものも
    あれば大きな株をつくっているものもある。
    小さな赤い花をらせん状にクルリと巻いた姿は何とも愛らしい。花序は左巻き右巻き両方ある。
    ラン科の仲間ではもっとも人間に近いところに生える花だ。

                        ネジバナ

            

     辺りにはヒメジョオンが荒れ地を覆うように繁茂していた。北アメリカをふる里とするだけあって
    繁殖力が非常に強い。壮観である。姫女苑の名のごとく、一つ一つの花はとても可愛いらしい
    のだが…。

                       ヒメジョオンの群落

           

     林の道に入った山側にヤマウコギ(山五加)がすでに実をつけていた。この仲間はふつう春に
    花が咲き秋に実をつけると言われるが実に早い。温暖な気候のせいかもしれない。
    五加は漢名。名前の通り、葉は掌状複葉で5個の小葉のある落葉低木。

     高倉から車道へ出る手前の草地でブタナが群生していた。輪生状に広がる根生葉からスックリ茎
    を伸ばし、黄色い花をつけた姿は優しい感じがするが繁殖力は強い。昭和初期に札幌で気づかれ、
    今では全国に広がっている。ヨ-ロッパ原産の多年草。植物の名前で頭にイヌとかブタとかついて
    いるのは役にたたないという意味だが、ブタナはフランスで「豚のサラダ」と呼ばれるのでこの名
    がついたという。

              ヤマウコギの実                 ブタナ

          

     車道を横切り集落をぬけて再び農道に入り、曲がり角にきたところで枝先いっぱいに花をつけた
    クマノミズキ(熊野水木)が見えてきた。葉は対生し花はミズキより1ヶ月遅い。名前は三重県熊野
    地方で最初に確認されたことによる。

                        クマノミズキの花

           

     右前方には黒い屋根に赤い壁の1軒家が見えている。田んぼの奥ににポツンと佇むその姿は、
    緑を濃くした周りの森と稲葉に映えてどこか風情を感じる。
    ふと足元を見ると草の葉にアブが止まっていた。ベッコウハナアブかもしれない。

          田んぼの奥に建つ一軒家              ベッコウハナアブ

            

     1軒屋の手前から引き返し歩いている時、ササの葉に止まっているチョウが眼に入った。
    と思ったら、どうやらトンボエダシャクと呼ばれるシャクガ科の一種らしい。蛾の仲間なのだろう。
    尻尾は黄と黒色の紋様があり、羽根の外につき出している。
    さらに進んで行くと、今度はヤブの中にもいた。さきほどのトンボエダシャクに似ているがどうも
    違う。タテハチョウ化のコミスジかもしれない。3本の白い紋様がよく目立つチョウだ。

             トンボエダシャク                 コミスジ

          

     しばらく車道を歩き山道を越えて草原に出たところで見事なタチアオイが咲いていた。
    もともとは農家の庭に植えられていたものだろうが、風か何かによってその種子がこの草原に
    運ばれ根づいたのだろう。夏空によく似会う花のひとつである。
    タチアオイ(立葵)は中国あるいは小アジア原産と考えられているアオイ科の2年草。

    アオイ(葵)という名前は、草花以外にも冠名として古来からいろいろ使われている。例えば源氏
    物語の巻名-葵の上、葵巴(徳川氏などの紋所 賀茂社の神紋の賀茂葵に由来)、葵座、葵盆、
    葵鍔,葵祭(京都下鴨神社および上賀茂神社の祭)等々。
    葵という言葉には、色もそうであるがその響きにもどこか奥ゆかしい高貴な感じをもつ。

                          タチアオイの花

           

     2016年7月5日にもこのコ-スを散策した。藪道に入ったところで出迎えてくれたのが
    ウツボグサ、(靫草)すっくりと伸ばした花穂につけた紫色の花がとてもよく目立つ。その花穂が
    矢を入れる靫に似ているのでこの名があるという。山野の日当たりのよいところに生えるシソ科の
    多年草。

    藪道をぬけて明るい小道に出ると、山側の斜面にヒメヒオウギズイセン(姫檜扇水仙)が咲いて
    いた。ヨ-ロッパでつくられ明治中期に渡来した園芸草花で、どこかに植えられていたものが
    野生化したのだろう。鮮やかな朱色が夏空によく映える花だ。アヤメ科の多年草。

               ウツボグサ               ヒメヒオウギズイセン

            

     木々の間から民家がのぞく林道を通り車道に下りようとしたとき、道沿いの土手に群生して
    咲いているノカンゾウが眼を惹いた。すでにこの稿でも取り上げている花だったが、あまりの
    見事さにカメラを向けた。このノカンゾウ、東京周辺ではでは非常に少なくなっているらしい。
    しかし千葉周辺では、ヤブカンゾウほどではないがノカンゾウも眼にすることが多い。

                    山の斜面に群生するノカンゾウ

           

     車道から前方に広がるもう一つの里山に入って行くと、林のふちに小さな白い花が咲いていた。
    まだそのほとんどは蕾だったが、よく見るとなかなか可愛い。ジャノヒゲだ。リュウノヒゲとも
    呼ぶ。名前の由来は、細い葉を蛇や竜のヒゲに見立てたものらしい。
    私はよくこの草の上に座って弁当を開くことがある。クッションがよくズボンも汚れないからだ。
    オオバジャノヒゲというのもある。こちらはジャノヒゲよりも葉が広く、花も大きい。いずれも
    キジカクシ科常緑の多年草。

            ジャノヒゲの花               オオバジャノヒゲ

          

     丘陵は縦横に入り組んでおり、その間に田んぼや谷津田、草原が挟まれている。その草原に
    チダケサシ(乳茸刺)が群落をなして広がっていた。
    乳茸(チチタケ)は食用のキノコで、チダケサシの花が咲く頃が旬。これをチダケサシの串に
    刺して運んだことからこの名があるという。ユキノシタ科の多年草。

                        チダケサシの花

             

     このチダケサシ近くの原では、黒いチョウがヒラヒラと優雅に飛びまわっていた。2~3匹はいる。
    ジャノメチョウのようだ。どこにでもいるようなチョうらしいが、私にとっては珍しい。そっと
    近づけばじっとしていてくれる。
    この先の草原でもまたこのチョウが見られた。5~6匹のジャノメチョウが草から草へ飛び移ったり、
    ウツボグサの花の蜜を吸ったり、中には縄張り争いでもするかのように戯れているのもいた。
    食草はススキなどのイネ科というから明るい草原が好きなのだろう。

                   草原の草の葉に止まるジャノメチョウ

           

         草の葉に止まるジャノメチョウ       ウツボグサの蜜を吸うジャノメチョウ

            

     この草原を見降ろす道を歩いていたとき草叢に虫がいるのに気づいた。エンマコオロギだ。
    カメラを向けるとピョント跳びはね、枯れ草の中にもぐりこんだ。これでは撮れない、草を払い
    のけようとすると、またピョントはねゴソゴソと草叢に隠れてしまう。何度も試みるうちにやっと
    追い出すことができた。瞬時にパチリ。ふつうエンマコオロギの成虫が現れるのは8月頃らしいが、
    千葉は温かいのかこの7月初旬にその姿を見せてくれた。

                        エンマコオロギ

           

      土気~昭和の森~大網   2015.6.22、2016.6.12

     土気駅から15分~20分位歩くと昭和の森公園に着く。鬱蒼とした木々が茂る薄暗い森の道を
    ぬけると眼の前に湿原が現れ、たくさんのハナショウブが広がっていた。少し見頃を過ぎていた
    のか、すでに花を終えた株もあった。青や白色の花びらが明るい光に映えて美しい。

     ハナショウブ(花菖蒲)はアヤメ科の多年草。菖蒲の字はアヤメとも読むが、サトイモ科の
    ショウブ(菖蒲)と、アヤメ科の類とは葉の形が似るだけで全くの別種。万葉集などで菖蒲と
    書いてアヤメと呼んでいたのはサトイモ科のショウブのことらしい。
    ハナショウブはノハナショウブを原種として改良されたもので多くの園芸品種がある。

                         ハナショウブ

          

     ハナショウブに見とれながら歩いていると、木道に止まっているトンボが眼についた。近づくと
    振動に驚いたか、下の石に飛び移ったりまた舞い戻ったりしている。オオシオカラトンボの雌の
    ようだ。金色と黒色の斑紋がとてもよく目立つトンボだ。

                     オオシオカラトンボの雌

          

     下夕田池に出てみると無数のスイレンが水面を覆っていた。むし暑い時期だが、丸い緑の葉の
    上に浮かべている白や真紅の花びらが気持を和ませてくれる。これもまた夏を代表する花である。
    スイレン(睡蓮)は水生の多年草。地下茎から長い茎を伸ばし水面に葉や花を浮かべる。冬には
    枯れて休眠する。
    睡蓮はヒツジクサ(未草)の漢名だが、白い花を未の刻ごろ(およそ午後1時~3時の間)に咲かせ
    ることからこの名がついたといわれる。ただ園芸種としてつくられた日本のスイレンは、午前中
    から花を咲かせている。赤い花も園芸品種のひとつ。

                          白いスイレンの花

             

                      赤いスイレンの花

          

     岸辺の石の上には赤いトンボが止まっていた。近づいてカメラを向けると石から石へ飛んで
    行き、追いかけて行くと今度はスイレンそばの枯れ枝に止まった。ナツアカネではないかと
    思われる。
      

                           ナツアカネ

           

     2016年6月12日この地畔の道を歩いていたとき、クヌギの木の根元で争っている2匹の大きな
    ハチが眼に飛び込んできた。非常にデッカイ。オオスズメバチのようだ。争いに負けた1匹はどこ
    かに飛んでいったがもう1匹の方は木に留まり、コルク質の木肌を舐めはじめた。クヌギの樹液
    を吸っているようだ。そばには10数匹の小さなハチが群がっていて多少うるさそうにしていたが
    追い払い、蜜を一人占めにしていた。

                   クヌギの樹液をなめるオオスズメバチ

           

                         オオスズメバチ

          

     こうしたチャンスはめったにない、私は夢中になって何回もカメラを向ける。30cm位まで
    近寄ったこともあるが危険は感じなかった。オオスズメバチは日本の最大のハチ。
    性質は凶暴で毒性も強いと言われるが、相手は1匹、蜜を吸うのに夢中になっていた。こちらから
    手を出さないかぎり攻撃してくることはないと思っていたのである。
    オオスズメバチの様子をじっと見ていたとき、どこからかルリタテハがやってきてクヌギに止まっ
    た。しかしオオスズメバチの眼の前まできた瞬間、ルリタテハは突き飛ばされ、遠くへ逃げ去って
    行った。

                 クヌギの樹液を吸うオオスズメバチとルリタテハ

           

     ルリタテハは樹液を吸っているときは翅を閉じているときが多いが、樹木に止まった瞬間は
    バタバタと翅を開くときがある。しかしすぐ閉じてしまい、シャッタ-チャンスが難しい。
    ルリタテハは英名で”青い提督”と呼ばれるように、開いたときの黒地に青い翅の紋様はどこか
    高貴な趣を感じる。

                     翅を開いたときのルリタテハ

             

     2ヶ月あとの8月13日再びこの池に来た時、見慣れないトンボがヒラヒラ飛んでいた。
    ハスが繁茂する池の上のあちこちで見られ、交尾しようとしているのか互いに追いかけたり、
    ホバリングしたり、中には池上に産卵したりしているものもいる。羽根は黒青色、青い金属製の
    色がよく目立つ。チョウトンボのようだ。スピ-ドはかなり速い。しかしなかなか止まってくれ
    ない。10分ほど待ったが諦めて他を散策、1時間後戻ってみると、草の枯れ枝に止まっている
    のがいた。

                         チョウトンボ

           

     下夕田池を離れやや暗い山道に入って行ったところで、辺りを飛び回ったり草の葉に止まったり
    しているトンボが眼につく。かなりたくさんいる。歩く先々に見られる。ノシメトンボのようだ。
    羽根の先に黒褐色の斑紋があるので分かりやすい。

                           ノシメトンボ

           

     藪の中には黒いチョウがいた。黒い羽根に1本の白い帯がある。調べてみたところ、マダラガ科
    の蛾の一種ホタルガと分かった。全身が黒く頭部だけが赤い。どこかホタルを思わせるような姿が
    名前の由来らしい。

                        ホタルガ

          

     細長い田んぼが続く山間の道を通り過ぎると、眼下に小さな集落が点在する広い田園風景が
    見えてくる。山道を下りしばらく歩いて行くと、民家の近くにアメリカデイコと思われる見事な
    花が咲いていた。
    日本の沖縄や小笠原に生育するデイコというのもあるが、こちらはブラジル原産の落葉樹で庭木や
    街路樹としても植えられている。デイコは沖縄、アメリカデイコは鹿児島県の県花。
    いずれもマメ科のデイコ属。デイコというのは漢名の梯梧を音読みしたもので、由来は不明だと
    いう。

     アメリカデイコのそばにはスモモ(酸桃)が赤い実をつけていた。いかにも美味しそうだ。
    スモモは古くに中国から渡来し、広く栽培されているバラ科サクラ属の落葉樹である。花は白色。

             アメリカデイコの花               スモモの果実

          

     田んぼの道沿いには、ひらひらと飛びまわるチョウがいた。群生したシロツメクサ(クロ-バ)
    の花から花へ飛び移っている。夢中で蜜を吸っているのか、カメラを向けてもまったく気にして
    いない様子。鮮やかな色をしたチョウだ。ヒメアカタテハではないかと思われる。

                        ヒメアカタテハ

           

                       ヒメアカタテハ

          

     その後のどかな田園風景が広がる道を歩き14時過ぎ大網駅に着く。

      都川支流沿いのサイクリングロ-ド 2015.6.25 

     どんよりとした梅雨の曇り空、私は都川沿いから緑区の平山方面への道をサイクリングに
    出かけた。辺りに田んぼや草原が広がるのどかな風景の中を1時間程走り、農道とも畔道とも
    つかぬような小道に入る。山側には鬱蒼とした木々が茂っている。自転車から降りてそれを押し
    ながら歩いていたとき、草原に丸い網巣をつくり、中央で獲物に噛みついているコガネグモが
    いるのに気づいた。腹部に黄色と黒の縞模様のある色鮮やかなクモだ。その強い糸でグルグル
    巻きにされている獲物は、チョウか、セミの一種かもしれない。
    私は郷里の田舎にいたとき、獲物がコガネクモの網にかかった瞬間を何回か見ている。獲物が
    かかるとコガネグモはすばやくかけより、獲物を足でコマのように回しながら尻から帯のように
    繰り出す白い糸で巻きつけ、動けなくなったとみるや中央に引きよせ、跡かたもなくなるまで
    食べてしまうのである。

                      獲物を食べるコガネグモ

           

     これはメスのコガネグモだが、オスの大きさは雌の1/5位しかない。オスはメスの網端に足を
    かけて様子をうかがい、機をみるやメスに近寄りすばやく交尾する。しかし交尾のあと、オスは
    メスに食べられてしまうこともあるそうだ。子孫を残すためとはいえ、オスにとっては命がけの
    交尾なのである。

    子供のころ私はコガネグモを棒きれの両端に1匹ずつ置き、ケンカさせて遊んだことがある。
    互いに近寄ると、強い方は長い足で相手を攻撃退散させてしまうが、弱い方は初めから糸を
    繰り出したり、すぐに逃げ出したりするものが多かった。

    さらにこの近くで、眼の前を悠々と飛んでいるオニヤンマがいた。辺りを行ったりきたり、
    舞い戻ったりしていたが、その姿はトンボの王様のようにも見える。いかにも堂々としている。
    黒い体に黄色の斑紋、眼は薄緑色。
    名前の由来は、恐ろしげな顔つきと黒と黄色の模様が、トラ柄のふんどしをした鬼を連想させる
    ためらしい。
    止まってくれないかとじっと見ていると、願いが通じたのか草の葉に止まった。そっと近寄り
    カメラをむける。

                    葉に止まって体を休めるオニヤンマ

             

     畔道の向かい側には田んぼ沿いによく整備された道が通っている。今年の5月初めにこの道を
    走っていたとき、ふと下を見ると、茂みの中にチョロチョロ動き回っているモズが眼についた。
    時々鳴き声を上げて辺りをうかがったり、少し遠くへ飛んで行ったり、また舞い戻ったりしている。
    距離は約7~8m。モズはすばやく、人間の姿に気づくとすぐ逃げたりするが、どういうわけか私の
    姿を見ても驚いたりする様子はない。同じ場所で行ったり来たりしていたのである。
    モズは春先から初夏にかけて繁殖するというから、巣でもつくろうとしていたのかもしれない。
    おかげで何回もモズの姿をカメラに収めることができた。

                   茂みの中で動き回っていたモズ

           

                       茂みの中にいたモズ

            

     この道を真っすぐ走って行くと谷間の行き止まりになっているが、その手前の湿地にハンゲ
    ショウ(半夏生)が小さな群落をつくり、白い葉を太陽に光り輝かせていた。
    ドクダミ科の多年草で、名前の由来は半夏(7月初旬)のころに花が咲き白い葉が目立つこと
    からきているが、千葉は温暖なせいか、すでにこの時期(6月25日)にその姿が見られた。
    また葉の下半分が白くなるので半化粧とも書き、カタシログサ(片白草)とも呼ぶそうだ。

                           ハンゲショウ

           

     谷間のいちばん奥では、数匹のオオシオカラトンボのオスが飛び回っていた。しかしすぐ枯枝に
    止まる。カメラを近づけると逃げるときもあるが、すぐ他の枝に移ったり地面に降りたりする。
    トンボは飛ぶ昆虫の中では撮りやすいほうだ。

                    オオシオカラトンボのオス

             

     近くの藪にはハグロトンボがいた。近づくと気配を感じるのか、ヒラヒラと優雅に羽根をはためき
    させながら飛んで行く。しかしすぐ草の葉や枯れ枝などに止まることが多い。暗いところが好きな
    トンボらしい。

                         ハグロトンボ

            

      四街道~総合公園~物井 2015.6.25 

     四街道駅から車道を歩き四街道総合公園手前の小道に入ったところで、メマツヨイグサが
     咲いていた。マツヨイグサの仲間は太陽が照りつける昼間は花を閉じていることが多いが、
     この日は朝方だったためかまだ花開いていた。夕方開いて翌朝はしぼむ花なのである。
     この仲間はアカバナ科の2年草。

     「♪待てど暮らせど来ぬ人を宵待草のやるせなさ…♪」ではじまる「宵待草」の歌は、
    大正時代の画家であり詩人でもあった竹久夢二の作だが、待宵草のところを宵待草と書き間違えて
    しまったらしい。しかし私は、宵待草のほうが情感があっていいと思う。

                        メマツヨイグサ

           

     この花のそばでは、ナワシロイチゴ(苗代苺)が鮮やかな赤い実をつけていた。いくつか
    つまんで口に入れてみたが、とても美味しかった。果実酒やジャムなどにも利用されるらしい。
    バラ科キイチゴ属の落葉低木。苗代をつくるころに実が赤く熟すのでこの名があるという。

                       ナワシロイチゴの実

           

     この日は日曜日。大勢の子供たちが公園内で野球をしている姿を見ながら里山に入って行く。
    道沿いには、ネムノキやヤマハギ、アジサイなどの花が咲き誇り眼を楽しませてくれる。
    瑞々しい緑の水田脇の道を歩いて行くと、やがて前方に集落が見えてきた。みそら団地の一角だ。
    みそら団地から森の小道に入り下って行くと、物井に通じる田園地帯に出る。左手に民家数軒。

    右手の茂みには小さな花をたくさんつけた、ママコノシリヌグイ(継子の尻拭い)が繁茂していた。
    夏から秋にかけて生えるタデ科の1年草だが、茎や葉には鋭いトゲがあり、いかにも痛そうなので
    この名前がつけられたという。しかし、これで柔らかいお尻を引っ掻かれたら大変だ。
    よくもまあこんな名前をつけたものだと思う。植物には面白い名前がたくさんあるが、その中でも
    忘れることのできないユニ-クな名前だろう。

                     ママコノシリヌグイの花

           

     曲がりくねった農道を歩いていると、水溜りの土の上で羽根をヒラヒラさせながら動いている
    黒いアゲハチョウの姿が眼についた。時々移動しながらさかんに吸水している様子。クロアゲハ
    のようにもカラスアゲハのようにも見える。私の乏しい知識でははっきりしない。

                        クロアゲハ?

           

                       クロアゲハ?

          

     物井駅に近い田んぼの畔にヤブカンゾウ(藪萱草)が咲いていた。緑の稲葉と朱色の花が
    鮮やかに映えて眼に沁みる。この花を見ると、いよいよ夏がやってきたのかという感がする。
    中国原産のワスレグサ科の多年草で朝開いて夕方しぼむ1日花。ノカンゾウは一重だがヤブカン
    ゾウは八重咲き。カンゾウの仲間のつぼみや若芽はおいしいそうだ。春先、土手などでカンゾウ
    の葉を摘んでいる人を見かけることがある。
    萱草はワスレグサとも読み、身につけると憂さを忘れると考えられていたところからこの名が
    あるという。

                      ヤブカンゾウの花

           

     沿いの山側には黄色い実をつけたイヌザクラ(犬桜)が、その下にはタケニグサの花が咲いて
    いた。イヌザクラはバラ科サクラ属の落葉高木。4月頃ブラシのように見える白い花穂をつける。

    タケニグサ(竹似草)はケシ科の多年草。茎は中空で、切ると有毒の黄色い乳液を出す。中空の
    茎を竹に見立てて竹似草の名がつけられたといわれる。

            イヌザクラの実               タケニグサの花

            

      大網~土気  2016.6.24

     大網駅から大竹調整池を通り下の田んぼ脇の藪道に入り歩いていると、眼の前をアブが通り
    過ぎて行った。何やら大きな物を口にくわえ重そうである。見ていると、いったん草叢に落ちて
    いったがまた飛び上がり草の葉に止まった。どうやら獰猛なアブとして知られるシオヤアブの
    ようだ。くわえて前足で抱きかかえているのはミツハチかそれとも他の昆虫か?…。
    シオヤアブは、コガネムシや飛翔中の昆虫を後ろから追いかけ足で鷲掴みして捕える暗殺者らしい。

                      獲物を捕えたシオヤアブ

           

     先へ進み法光寺への小道に入ってすぐ、林のふちに小さな花が咲いているのに気づいた。
    よく見るとヤブコウジ(藪柑子)の花だ。秋から冬にかけて赤い果実はよく見かけるが、花を眼に
    するのは初めてである。まだ花を開いているものは少なく、ほとんどは蕾のままだったが、珍しい
    ものにでも出会ったような気がした。

                        ヤブコウジの花

           

     のどかな農道から丘陵の山道を上って畑が広がる道に出て歩いているとき、”ブ-ン、ブ-ン”
    という虫の飛ぶ音が聞こえたので見ていると、林の倒木の陰に降りて止まった。藪の中に入って
    行き足で草を払うとそこに虫の姿があった。カナブンのようだ。じっと動かないでいる。いや、
    驚いて動けなくなっていたのかもしれない。カメラを向けてパチリ。しばらくするとカナブンは
    突然羽根を広げ空中高く飛び去って行った。カナブンに出会うのは久しぶり、子供のころよく見て
    いたのでどこか懐かしい思いがした。

                         カナブン

           

     畑の道から狭い林道に入ってほどなく小さな池があるところに出る。池では3~4人の人たちが
    釣り糸を垂れる姿があった。池のそばの山の斜面には倒木があり、それに鮮やかな朱色の
    ヒイロタケと、半円形の紋様のあるカワラタケがたくさんついていた。いずれもサルノコシカケ科
    のキノコだという。

                           ヒイロタケ

           

                         カワラタケ

            

     地畔の草原にはたくさんのヒメジョオンが咲いており、その花に飛び移っていくヒョウモン
    チョウが見られた。かなり大きいチョウだ。よくは分からないがミドリヒョウモンかもしれない。
    鮮やかな朱色に黒の斑紋が映えて美しい。

                  ヒメジョオンの蜜を吸うミドリヒョウモン

           

                      ミドリヒョウモン

          

     林道をぬけると視界大きく広がり、田んぼの向うに土気の街が見えてくる。絨毯のように敷き
    詰められた稲葉の緑が瑞々しい。
    田んぼ脇の農道を歩いているとき、眼の前をガのようなものがフワフワと飛んで行き松の葉に
    止まった。腹部に黄色と黒の斑紋がある。ジャクガ科の一種のように思える…。

                     マツの葉に止まるトラガ

           

      ユ-カリが丘~ユ-カリが丘  2015.6.29  2016.7.24

     京成ユ-カリが丘駅から東方面にしばらく歩いたあと南に道をとり、広大な田園風景が広がる
    農道に出ると、赤い実をたくさん散らしたニガイチゴと、花序に淡いピンク色の花をつけたツル
    ニガクサが出迎えてくれた。いずれも梅雨時期に見られる景観である。

    ニガイチゴ(苦苺)はバラ科キイチゴ属の落葉低木。果肉は甘いが名前のとおり少し苦味がある。
    葉は互生し3つに切れ込むものが多く、裏が白いので分かりやすい。

    ツルニガクサ(蔓苦草)はシソ科の多年草。苦草という名前がついているが、この植物の茎や葉は
    苦くない。したがって名前の由来は不明だそうだ。

            ニガイチゴの実                 ツルニガクサの花

            

     農道をのんびり歩いているとき、道端で吸水しているアオスジアゲハが眼に止まった。
    近づいても逃げない、夢中で水を吸っている様子。
    「こんなときはめったにないのよ、どうぞ撮ってちょうだい」とでも言っているようにも見える。
    たしかにアオスジアゲハはヒラヒラ飛んでいるときが多く、なかなか捕えられないチョウだ。
    チャンスとばかりにカメラを向ける。鮮やかな黒と緑の斑紋が美しい。

                      吸水するアオスジアゲハ

           

     山側にはまだ黄色い実のウワミズザクラと、やや赤くなりかけたコブシの実が見られた。
    ウワミズザクラ(上溝桜)はバラ科サクラ属の落葉高木。実は夏から秋にかけて赤から黒に熟す。
    コブシ(辛夷)はモクレン科の落葉高木。実は秋にかけて塾すと袋果が裂け、赤色の種子が出る。
    コブシの実は、噛むと跳び上がるほど苦い。

          ウワミズザクラの黄色い実              コブシの実

          

     しばらく行くと、周りを緑の丘陵にとり囲まれた谷津に出る。ススキやヨシが広がる草原には
    小川が流れ小さな溜池も点在、昆虫やカエル、小魚も棲んでいる湿地帯だ。ダイサギやカモのよう
    な水鳥もやってくるが、以前眼にしたことのあるアマサギは最近見られなくなっている、どうした
    ものだろう…・。

    私はここでボランティアの人たちを見かけることがあるが、この緑豊かな自然は彼らによって整備、
    保たれていることを知った。立て看板の一部を抜粋すると、
    「豊かな谷津の景観と生物多様性の保全をめざして、多くの方が自然活動や環境活動に参加できる
    よう保全整備していきます」…とあった。

                          畔田谷津の風景

             

     右手の林に入って行く。辺りにはコナラ、エノキ、ニガキ、サクラ、イヌシデ、ムクノキ、
    シロダモ、アオキなどが生い茂る。小道にはヤブカンゾウが華やかに咲き誇り、カタバミ、
    ムラサキツメクサ、ヒメジョオン、アカバナユウゲショウなどの花々が可憐な顔をのぞかせていた。
    梅雨とはいえ落葉樹の葉が被さる木陰には、ときおり涼しい風が吹きぬけ気持よい。中程にくると
    ネムノキの花が咲いていた。ピンクの花が辺りの緑に映えて鮮やかだ。

                       ネムノキの花

             

     ふと足元を見ると、枯れ草の上で這いまわる小さな虫がいた。ハチのようにも見えるがよく
    分からない。ハチの近くにはチョウが飛んでいたが地面に止まった。ヒョウモンチョウの一種の
    ようだ。

              ハチの一種?              ヒョウモンチョウの一種

            

     車道を横切りもう一つの湿地帯に通じる暗い道を歩いていたとき、樹上の間から電柱に止まって
    いるタカが見えた。トビではない、白い腹部の色が逆光でよく分からないが、ノスリのようだ。
    止まっているノスリはめったに見かけない。あわててカメラを向けてパチリ。しかしすぐ気づかれ
    遠くへ飛び去って行った。

                       電柱に止まるノスリ

           

     暗い道から別の谷津に入る。こちらの湿地帯はボランティアの手は入っていない。他の地所
    なのだろう。一部に田んぼが残されてはいるが、そのほとんどは茫々とした草木に覆われている。
    林のふちの狭い道には顔にまとわりつく小さな虫や蚊がたくさんいるが、それを振りはらいながら
    歩いて行く。何ともうっとうしい。
    ふと足元を見ると草の葉に小さな虫がついているのに気づいた。透明な大きな羽根に小さな体を
    包んでいる。ウスバカゲロウ?かもしれない。
    山側の暗い林にはホタルガがいた。ホタルには悪臭を放つものがあり、それに擬態しているとも
    言われているガの一種だそうだ。

             ウスバカゲロウ?                 ホタルガ

            

     湿地に眼をやると、枯枝に止まって交尾しているオオシオカラトンボがいた。上がオス、下が
    メス。トンボが尾つながりになることをタンデムと呼ぶそうだが、オスがメスの頭部をつかみ、
    メスがオスの交接器にドッキングさせている。トンボとはいえ何ともほほえましい光景だ。

                     交尾するオオシオカラトンボ

           

     地面にはミミズを食べている数匹の虫がいた。もしかしたら、オオヒラタシデムシかもしれない。
    生き物の死骸を食べる掃除屋で、とくに柔らかいミミズが好物らしい。土をつくるミミズ、その
    死骸を食べるオオヒラタシデムシ、どちらも自然界に欠かせない重要な虫だという。

        ミミズを食べるオオヒラタシデムシ         オオヒラタシデムシ

          

     梅雨は昆虫にとっていちばん好きな季節なのだろう。里山のどこでも、活発に動く彼らの姿を
    見ることができる。
    眼の前をヒラヒラと青色のチョウが飛んで行き、草の葉に止まった。ムラサキシジミだ。よく
    眼にするチョウでいつもなら通り過ぎて行くところだが、この日はカメラを向けた。よく見ると
    黒褐色の翅に青紫色の模様が入りなかなか美しい。

                        ムラサキシジミ

           

     湿地はススキ、オギ、ヨシ、黄色の穂をつけたガマなどで埋められ、小道には無数の小さな花を
    つけたマサキが生えていた。ガマもマサキも梅雨時期に花が咲く植物である。

    ガマ(蒲)はガマ科ガマ属の多年草で、ガマ属にはガマの他にコガマ、ヒメガマなどがある。
    語源はよく分からないがカマボコ(蒲鉾)やカバヤキ(蒲焼)などは、その形がガマの穂に似て
    いることから蒲という字が充てられ名づけられたといわれる。
    その昔大道芸人が演じていた「ガマの油売り}はこのガマではなく、ガマガエル(ニホンヒキガエル)
    からきたものらしい。

    マサキ(柾)はニシキギ科の常緑小高木。海岸近くに自生することが多い。6-7月に花が咲き、秋
    に果実が熟すと裂開し、中から朱赤色の種子が顔を出す。

            湿地に生えるガマ                マサキの花

          

     先に進んで行くと、林のふちに白い小さな花をびっしりつけたソクズが眼についた。
    レンプクソウ科ニワトコ属の多年草で樹木のニワトコによく似ているが、ソクズの茎には縦に黒い
    スジが入っているので、見分けられる。
    名前の由来は漢方薬の”サクダク”が転訛して”ソクズ”になったといわれる。

    田んぼには稲葉の蔭からオモダカ(面高)の花がのぞいていた。農家にとっては害草だろうが、
    白い花は清楚で可愛い。おせち料理に使われるクワイはオモダカの変種で、球茎を食用にするが、
    オモダカの球茎は小さすぎて役にたたない。
    オモダカ科の多年草で、長い柄のついた葉の基部が矢じり形に長くとがっているのが特徴で、人の
    顔のようにも見えることから面高の名があるという。

               ソクズの花                 オモダカの花

          

     2016年7月24日再びこのコ-スを訪ねた。谷津田に入り小沼が点在する畔道を渡り、対岸の
    小道を歩いていたとき、草叢の上を飛ぶチョウが眼に止まった。ツマグロヒョウモンのようだ。
    以前は近畿地方以西しか見られなかったというが、最近は関東地方にも生息地を広げたのだろう。
    雌は毒のあるチョウとして鳥たちが敬遠するカバマダラそっくりだという。

                     ツマグロヒョウモンの雌

          

     のどかな谷津田には葦原が広がりトンボやチョウが飛び交っている。気がつくと眼の前を小型の
    オニヤンマが通り過ぎ枯れ枝に止まった。コオニヤンマだと思われる。サナエトンボ科最大の
    トンボで、他のトンボや昆虫を捕食するという。
    葦の間にはジョロウグモが巣を張っていた…一瞬そう思ったが違っていた。ナガコガネグモだ。
    コガネグモにくらべると細長く縞模様も多い。美しいクモだ。

             コオニヤンマ                 ナガコガネグモ

          

     車道を渡りもう一つの谷津田に入ったとき草叢からサギの群れが飛び立ち、数羽は樹上に数羽が
    田んぼに降り立った。アマサギかと思ったが、夏に首筋から胸に現れる黄色い羽毛が見えない。
    チュウサギかもしれない。この鳥も夏鳥で、秋になるとその多くは越冬地の南方に渡って行くと
    いう。

                        チュウサギ

          

     田んぼ脇の畔道から夏草が繁茂する林のふちを歩いているとき、草の葉に止まっている小さな
    虫がいたので手でさわろうとすると、気配を感じたのか上方のクズの葉に飛び移った。黒い体に
    オレンジ色の斑紋がはいっている。よくは分からないがイタドリハムシのように見える。名前の
    ようにイタドリの葉やギシギシの葉を食べるハムシの仲間だが、クズも好きなのかもしれない。
    この近くの藪の中で、巨大な蚊のような虫がオニドコロの花穂に止まっているの気づいた。四方に
    細長い足を伸ばしたように見えるふしぎな形をしている。キリウジガガンボのようだ。ガガンボは
    蚊のように動物の血を吸うことはないらしい。

            イタドリハムシ?              キリウジガガンボ

          

     山道を上りはじめると林のふちにキツネノカミソリが咲いていた。ヒガンバナ科の多年草で、
    名前は春先にのびだす葉の形をキツネの剃刀にたとえたもの。花が咲く夏になると葉は枯れて
    しまう。

                         キツネノカミソリ

           

     山道をぬけて車道を横切り民家が立ち並ぶ小道を下って再び農道に出たところで、眼の前を
    ヒラヒラ飛んで行くモンキアゲハが眼に入った。このところよく見かけるチョウだが、なかなか
    止まってくれない。ところが今回は止まってくれた。それもほんの一瞬、すかさずパチリ。黒い
    翅に白い紋様がよく目立つ大きなチョウだ。

                   クワの葉に止まるモンキアゲハ

           

     さらに歩いて行くと、サクラの木の葉の上で交尾している虫がいた。よく見るとあの獰猛な
    シオヤアブだ。木の枝を引っ張りよせユラユラとさせてみたが、まったく動じない。平然と交尾
    したままだ。さすが昆虫界最強のハンタ-といわれるだけのことはある。

                     交尾するシオヤアブ

           


      土気~土気  2016.7.03

     この日は土気駅北口から大網方面へ歩きはじめてほどなく左手に道をとり、北に向かって広がる
    田園沿いの農道を散策した。うねうねとした丘陵に囲まれた田んぼには、50cmぐらいに伸びた
.    稲葉が緑の絨毯のようにどこまでも続いている。気温は30度近い、夏の日差しが容赦なく照り
    つけてくるが、辺りの緑が気持を和ませてくれる。
    農道に入ってまもなく、足をぶらさげながら飛んでいくハチが眼に止まった。見ているとハチは
    藪の中を飛びまわっていたが、やがて木枝に体を休めた。しかし忙しく動いている。
    セグロアシナガバチかもしれない。このアシナガバチ、ケムシやアオムシなどを捕えて噛み砕き、
    団子状にして巣に持ち帰るそうだ。

                       セグロアシナガバチ

          

     林のふちにはヤブカンゾウやヨツバヒヨドリが繁茂し、ネムノキもピンク色の花を咲かせはじめ
    ている。長い農道から民家近くの車道を歩いていたとき、眼の上を黒いチョウがヒラヒラと飛んで
    いき林の中に入っていった。追いかけていくと、チョウはオニドコロの葉に大きく翅を広げベタリ
    と止まっていた。翅の色は青く光っている。カラスアゲハのようだ。カメラを向けると気配を
    感じて飛び立ったが、また同じ葉に止まった。このカラスアゲハ、オニドコロの葉が好きなのかも
    しれない。

                       カラスアゲハ

          

     溝川と田んぼの間の畔道に入った。丈高い夏草が茫々と生い茂り、倒木や竹が道をふさぐ。
    前に立ちはだかる草をかきわけながら進んで行くが、ところどころクモの巣が顔にまとわりつく。
    大きな葉の上に見たことのないグモが乗っていた。自分で網を張り獲物を捕えるクモではなさそう。
    振動に驚いたか地面に逃げて草の葉に隠れた。カニグモの一種かもしれない。
    その近くの草の葉にイトトンボが止まっていた。胸が金緑色に輝いている。アオイイトトンボか、
    あるいはアジアイトトンボか?…。

                      アオイイトトンボ?

           

     その後調整池そばの草原に出たところで、ツルニガクサが花開き淡い黄色のチョウがさかんに
    蜜を吸っていた。チョウはシロチョウ科の一種だろうが、正確な名前は分からない。
    ツルニガクサ(蔓苦草)はシソ科の多年草。名に反して茎や葉は苦くない。名前の由来は不明。

                    ツルニガクサに止まる黄色いチョウ

          

      四街道~吉岡坂下~物井  2015.7.30

     2015年の7月は連日30度を越える暑さが続いていたため里山への散策はしばらくお休みにして
    いたが、ようやく7月30日四街道から吉岡坂下に出て物井駅まで歩いた。吉岡坂下でバスを降り、
    里山の小道に入る。丘陵に囲まれた細長い田んぼや谷津が続く辺りは静けさに包まれ、聞こえて
    くるのはウグイスやヒヨドリ、オオヨシキリの鳴き声、さらに「チョットコイ、チョツトコイ」と
    いうコジュケイの大声も谺している。

                       吉岡坂下付近の里山

           

     やぶ道に入ってほどなく、薄暗い草叢のなかにポツンと1輪ダイコウソウ(大根草)が咲いていた。
    バラ科の多年草で、名前の由来は根生葉の形がダイコンの葉に似ていることによる。

                        ダイコンソウの花

           

     ガサガサと歩く足音に驚いたか、やぶの中からチョウが飛んで出てきて山側の地面に止まった。
    翅に巴模様の斑紋があることから、ヤガ科のハグルマトモエの雄ではないかと思われる。
    この近くでもう1匹、ヒラヒラと飛んでいたチョウがクワの葉に止まった。セセリチョウ科の一種
    で、ダイミョウセセリに似ている。
    名前の由来は、江戸時代の大名家の羽織袴の紋様を連想させるとか、驚くと葉の蔭などに翅を
    広げて止まる姿が、大名行列がきたときに地面に平伏す町人をイメ-ジさせることからつけられた、
    というような説がある。

              ハグルマトモエ               ダイミョウセセリ

          

     やぶを出たところで、ミソハギの周りをヒラヒラ飛んでいる黄色いチョウが眼に入った。時々
    花に止まり蜜を吸っている。キアゲハだ。鮮やかな黄色の紋様がとても美しい。このチョウ、
    いつも飛びまわっていてなかなか捉えられなかったが、この時は花の蜜を吸うのに夢中になって
    いる。何回カメラを向けても逃げることはなかった。

                   ミソハギの花の周りを飛ぶキアゲハ

           

                    ミソハギの花の蜜を吸うキアゲハ

           

     一旦明るい田んぼ道を歩いていたが迂回して樹木が茂るやぶ道に入ったところ、辺り一面ヤブ
    ミョウガ(藪茗荷)の群落が見られた。ツユクサ科の多年草で、その名の通りヤブや林内に生え、
    葉の感じがミョウガに似ていることからこの名がある。

            ヤブミョウガの花             群生するヤブミョウガ

          

     ヤブミョウガの近くにはヤマユリの花が咲いていた。強い芳香のある大輪の花である。
    近畿以北に生える日本特産のユリで、神奈川県の県花にもなっている。真夏の代表的な花といって
    いいだろう。

                        大輪の花ヤマユリ

           

     暗いやぶ道から出たところで、足元で動いている黒い虫がいた。カメラを向けると気づいたのか
    早足で逃げ出し、草叢の陰にくると動かなくなる。それをつつき出し、なおも追いかけて行くと
    羽根を広げ木枝に飛んで行った。よく見ると、触覚がノコギリのようにギザギザの形をしている。
    ノコギリカミキリだろう。

                      ノコギリカミキリ

          

     広々とした農道を歩いて行く。道沿いの草叢にはノササゲの黄色い花が顔を出し、カラスウリの
    白い花も繁茂した葉の上に点々と咲いていた。やがてノササゲは青黒い種子を、カラスウリは赤い
    実をつけ、秋を華やかに彩ることだろう。

             ノササゲの花                カラスウリの花

          

     山側に眼を向けていると、林の中にアカトンボが止まっているのが見えた。濃い赤ではない、
    どちらかといえば朱色に近い。ヒメアカネのようにも思えるが、よく分からない。アカトンボの
    中で湿地を主な生息地とするのはヒメアカネだけだそうだが、成熟すれば林の中などに移動し
    ササや草の葉にとまる姿が見られるという。

                        ヒメアカネ?

          

     道端にはコマツナギ、カノツメソウ、トキリマメ、ミソハギ、ノカンゾウなどが咲き誇り、山側
    にはエゴノキやウワミズザクラがたわわに実を垂れ下げていた。春ほどではないがこの真夏でも、
    様々な植物が活動していることを改めて思い知らされる。

    ウワミズザクラはバラ科の落葉高木。緑色の幼果を塩漬けにするほか、新潟ではつぼみの塩漬けを
    杏仁香(アンニンゴ)と呼んで食用にするという。
    ノカンゾウ(野萱草)はワスレナグサ科の多年草。ヤブカンゾウの花は八重咲きだが、ノカンゾウ
    は一重。やはり若芽は食用にする。

           ウワミズザクラの実               ノカンゾウの花

          

     藪の中にちらちら飛んでいる小さなチョウがいたので見ていたら、ササの葉に止まった。翅は
    白地にたくさんの黒点が散らばるチョウだ。ゴイシシジミのように思える。このチョウ、ササや
    タケ類につくアブラムシの分泌液を吸うらしい。名前の由来は、翅の黒い斑点を碁石に見立てて
    つけられたことによる。

                  ササの葉の裏に止まるゴイシシジミ

             

     先へ進み山裾の草叢にバッタがいるのに気づきカメラを向けたところ、このバッタ驚いて飛び
    上がった瞬間、運悪く真上のクモの巣に引っかかってしまった。そこで待ちかまえていたのは
    小さなジョロウグモ、あまりにデッカイ獲物にビックリしたのか巣の端に移動、しばし様子を
    見ていた。しかし果敢に駈けよって糸を繰り出しはじめ、ついに自分の何倍もありそうな獲物を
    ぐるぐる巻きにしてしまったのである。
    捕えられたのはショウリョウバッタ(コメツキバッタ)、逃げようと必死にもがいていたが強靭な
    糸に巻きつけられて全く動かなくなった。
    ショウリョウバッタには申し訳ないが、生きるために厳しい戦いを繰り広げている自然界のドラマ
    の1コマを見たような気がする。

              ショウジョウバッタがジョロウグモの巣にかかった瞬間

             

      ショウリョウバッタを巻いていくジョロウグモ  ぐるぐる巻きにされたショウリョウバッタ

          

      大原海岸  2016.7.26

     久しぶりに房総半島外房の大原海岸を訪ねた。この海岸には、夏場にスカシユリやハマナデシコ
    が咲くことを知っていたからである。千葉から外房線に乗ると1時間10分位で大原駅に着く。
    駅から海岸方面に歩き、大原公園そばを通り抜け民家の裏から八幡岬近くに出る。ここは入り江に
    なっているところで、砂浜から堤防上がると青い太平洋の海が広がり、右前方に湾曲した岸壁が
    見える。

                          大原海岸の風景

           

     堤防を右に進んで行くと、岸壁や崖下に咲くオレンジ色の花が見えたが、堤防の上からは
    少し遠い。私は大きなテトラポットや岩石がゴロゴロ重なり合う下に降りて近づいてみると、
    オレンジ色の花はやはりスカシユリ(透し百合)だった。海岸の岩場や草地に生えるユリ科の
    多年草で、花弁と花弁の間にすき間ができているのが名前の由来。大輪の花を上向きに開いて
    いる姿は華やかで美しい。

                         スカシユリ

           

                        スカシユリ

          

    足元にはツルナやオカヒジキが砂地を覆うように広がっていた。いずれも海岸の砂地などに生える
    植物で、食用にできる。
    ツルナ(蔓菜)はハマミズナ科の多年草で、茎はつるのように這って広がることからこの名がある。
    オカヒジキ(陸鹿尾菜)はヒユ科の1年草で、全体の姿が海藻のヒジキに似ていることからつけ
    られた名前。若い茎の先を摘んで食用にするという。

              ツルナ                   オカヒジキ

          

     右方面の堤防は切れて行きどまりになっていたため引き返し大原漁港方面に歩いて行くと、
    堤防の上にイソヒヨドリがいた。近づくとその分だけ遠くへ離れて行く。海岸の岩の割れ目や
    建物のすき間に枯れ枝をつんで巣をつくるらしく、さほど人間を恐れているようには思えない。
    最近では街中の道端でも見かけたことがある。
    ヒヨドリに似ているがツグミ科に分類され、ヒヨドリとはまったく別の鳥だという。

                       イソヒヨドリ

           

     しばらく行ったところで堤防は崩壊7~8mhぽど切れていたが、その岩の割れ目に花期を終えた
    ハマボッス(浜払子)が生えていた。サクラソウ科の2年草で、全体の様子を仏具の払子に見立て
    てこの名があるという。

                      花期を終えたハマボツス

           

     下に降り岩石の間から前方の堤防に這い上がる。この辺りはいつも大きな荒波が打ち寄せとても
    通れるようなところではないが、この日の波は静かで運よく渡りきることができた。
    ふと気がつくと、高い崖の上にスカシヨリが群落をなして咲いていた。壮観な景観だ。千葉県では
    レッドデ-タ-に指定されている貴重なユリ、いつまでもこの景観を残しておきたいものである。

                     高い岸壁に生えるスカシユリ

           

                    高い岸壁に生えるスカシユリ

          

     堤防から50mはあろうかと思われる遠い岸壁には、赤い花をつけた数十株の草株が点々と見える。
    どうやらハマナデシコのようだ。望遠ズ-ムをいっぱいに伸ばしてカメラをむける。
    ハマナデシコ(浜撫子)はナデシコ科の多年草。花期は7月から11月頃までと非常に長く、暖かい
    ところでは冬でも見られるという。厚くてつやつやした葉はいかにも海岸植物らしい。

             白い岸壁に咲くハマナデシコ、そばにいるのはイソヒヨドリ

           

                      岸壁に群生するハマナデシコ

          

     湾曲した崖が手前に近づいたところで、岩裾にボタンボウフウ(牡丹防風)が花をつけていた。
    海岸に生えるセリ科の多年草で、ボタンは葉が厚く、青白色で牡丹の葉に似ていることによる。
    また若葉や根が食べられるので食用防風とも呼ばれる。この植物も潮風が好きなのだろう。

                     岩場に生えるボタンボウフウ

             

     さらに進んで行くと堤防左手に岩壁に囲まれた段丘があったが、3mぐらいの高さがあり下からは
    見えない。何かあるかもしれない…そう思って段丘に上がってみて思わず息をのんだ。岩の割れ目
    に見事なハマナデシコが咲いていたのである。真紅の花びらが眼にしみるように美しい。
    ハマナデシコを初めて見たのは10数年前のこの海岸だったが、その時は海が荒れていて遙か
    遠くにしかその姿を見ることができなかった。しかし今回は間近にある。久しぶりに出会う思いで
    カメラを向けた。

                   岩の割れ目に咲くハマナデシコ

           

                    岩の割れ目に咲くハマナデシコ

          

     しばらくすると大原漁港に出た。ここから大原駅に引き返そうとも考えたが時計を見るとまだ
    11時過ぎ、思い直して次の三門駅まで歩くことにした。
    大原漁港から日在浦海岸にかけては広い砂浜が長く続き、砂地を覆うほどにコウボウムギや
    ケカモノハシが群生していた。春から夏にかけては、ハマエンドウやハマニガナなどが見られる
    ところでもある。

     コウボウムギ(弘法麦)はカヤツリグサ科の多年草。地中にある古い葉鞘の繊維を筆に使った
    といわれ、書道の達人弘法大使にちなんでこの名がつけられたという。
    ケカモノハシ(毛鴨の嘴)はイネ科の多年草。茎の先の穂が1本しかないように見えるが、実際は
    2本の穂がぴたっと寄り添っており、これを鴨のくちばしに見立ててつけられた名前だといわれる。
    カモノハシには毛がないが、ケカモノハシは茎や葉に毛が多い。

             コウボウムギ                  ケカモノハシ

          

      ちはら台~滝口入口~古都辺~ちはら台  2015.8.25

     昨年の8月も連日30度を超す暑さが続き外に出るのは控えていたが、この日は最高気温27度と
    少し涼しくなったため里山歩きに出かけた。
    千葉からちはら台までは電車、そこから茂原方面へのバスに乗って市原市の滝口入口で下車、
    古都辺周辺の田園を散策した。そろそろ秋の花々も見られる頃だろうと思ったからである。
    田園に出るまでの林道を歩いていたとき、道端にガガイモが、そのそばにはヘクソカズラの花が
    咲いていた。いずれも夏の終わりから秋口にかけてふつうに見られる花である。

    ガガイモ(蘿摩)はキョウチクトウ科のつる性の多年草。茎を切ると白い汁が出る。
    名前の由来は諸説あるようだが定説はない。葉が亀の甲羅のように「亀」の方言「ゴガミ」から
    ガガに転訛、果実の色や形がイモに似ているからという説もある。種子を乾燥したものは生薬の
    蘿摩子(ラマシ)で、乾葉とともに強精剤とし、また種子の毛は綿の代わりに針さしや印肉に
    用いるという。漢字の蘿摩は蘿摩子からきたものかもしれないが、とてもガガイモとは読めない。

    ヘクソカズラ(屁糞蔓)もつる性の多年草。茎や葉、花などをもむといやな臭いがするのでつけ
    られた名前だというが、花はかわいらしいのでこの名前はかわいそう。
    花の姿を田植えをする若い女性が被る笠に例えたサオトメカズラ(早乙女蔓)とも呼ばれることが
    あるが、一般的にはヘクソカズラのほうで知られている。
    その昔植物学者が昭和天皇をご案内したとき、ヘクソカズラは言いづらく、
    「この植物はサオトメカズラでございます」…と紹介したところ、植物に詳しい昭和天皇は
    「なんだヘクソカズラのことか」…と言われたそうな…。

              ガガイモ                 ヘクソカズラ

          

     さらに林道には、道端を縁どるように長い穂を伸ばしたヤブマオや、黒紫色の実をつけた
    ヨウシュヤマゴボウなどが繁茂していた。いずれも秋が近いことを思わせる植物である。

    ヤブマオ(藪芋麻)はイラクサ科の多年草。ヤブに生えるマオ(カラムシ)の仲間という意味から
    つけられた名前で、古くには茎の繊維が丈夫なことから布を織るのに利用されたという。

    ヨウシュヤマゴボウ(洋種山牛蒡)は北アメリカ原産ヤマゴボウ科のの多年草。明治初期に渡来
    した。アメリカでは果実をつぶすと紅紫色の汁がでるのでインク・ベリ-と呼ばれている。

              ヤブマオ                ヨウシュヤマゴボウ

          

     林道をぬけると山間に囲まれた田んぼがつづく。稲穂はすでに黄金色に染まり、そろそろ刈り
    取りの時期を迎えているようだ。眼の前に古都辺取水場の建物が建っているが、民家はない、
    人影もない、静かな里山の雰囲気を感じるところだ。

    ゆるやかな坂道を下って行くと、クサギ(臭木)が見事な花を咲かせていた。クマツヅラ科の
    落葉小高木で、名前の通り枝や葉を切ると独特の臭気があるが、白い花は香りがよい。萼は
    赤味を帯びる。ゴンズイの赤い実とともに、夏の終りから秋の里山を彩る花である。

                          クサギの花

           

     田んぼ脇の林のふちにはセンニンソウ(仙人草)とボタンヅル(牡丹蔓)の花が咲いていた。
    いずれもキンポウゲ科センニンソウ属つる性の半低木。白い4個の花びらに見えるのは萼片で、
    花はその中にある。葉はどちらも対生するが、ボタンヅルは3出複葉になっている。
    センニンソウは花が終わると白くて長い毛が密生するが、この花柱を仙人のヒゲに例えたとか。
    またボタンヅルは葉がボタンの葉に似ているのでこの名があるという。

             センニンソウ                  ボタンヅル

          

     ノブドウも花を咲かせ、同じつるにやや赤くなりかけた実をつけているものもあった。実は
    薄緑色から紅紫色、ルリ色に塾すが食べられない。同じブドウ科のエビヅルの実は甘酸っぱく
    て美味しい。ノブドウ(野葡萄)はブドウ科の落葉性のつる植物。

                          ノブドウの花と実

             

     アキノタムラソウも穂状に紫色の花をつけ、キブシは多数の青い実を数珠玉のようにぶら下げて
    いた。
    アキノタムラソウ(秋の田村草)はシソ科の多年草。秋とあるが、花は夏から咲きはじめる。
    名前の由来は不明。

    キブシ(木五倍子)はキブシ科の落葉低木。名前は、キブシの果実が「黒色染料」に使用された
    五倍子(ゴバイシ、またはフシと読む)の代用として使われたことから、「木五倍子」「木付子」
    と呼ばれるようになったという。五倍子はヌルデの若芽、若葉などに生じる虫こぶのこと。

            アキノタムラソウ                 キブシの実

            

     田んぼの上や草原にはモンシロチョウやキチョウ、林のふちや藪の中にはミスジチョウ、
    ハグロトンボ、アカトンボなどが飛び交い眼を楽しませてくれる。
    しばらく行くと道脇にイノシシの囲い罠が設置されてあった。この辺りイノシシが出没し、農産物
    に大きな被害を与えているのだろう。

                   農道脇に置かれたイノシシの罠

           

     山道をぬけると広大な田園風景が広がってくる。田んぼの一部ではすでに稲刈りが行われていた。
    私が子供のころは大勢の人たちが鎌で稲を刈り取っていたものだが、今は一人が刈り取り機を操り
    ながら行われている。ほとんど人手はいらない、農家も随分楽になったことだろう。それにしても
    千葉の稲刈りは早い。

                         稲刈りの風景

           

     舗装された農道脇には小さな流れがあり、流れを挟んだ山壁には花をつけたヌスビトハギ、
    タラノキ、タマアジサイなどが繁茂、道端には近くの畑から飛んできたのかオクラの花も眼に
    ついた。

    ヌスビトハギ(盗人萩)はマメ科の多年草。盗人の忍び足のような果実がつくのでこの名があると
    いう。藪道などを歩いているとこの果実がズボンにくっつく。この植物は動けないかわりにこう
    した工夫で種子を運んでもらい、子孫を残そうとしているのである。

    タラノキ(楤木)はウコギ科の落葉低木。枝や葉には鋭い刺が密生している。春の新芽はとても
    美味しい。

            ヌスビトハギの花               タラノキの花

          

     タマアジサイ(玉紫陽花)はアジサイ科の落葉低木。つぼみが球形で玉のように見えることから
    この名がある。
    アジサイは漢字では紫陽花と書かれるが、これは唐の詩人白楽天が別の花(おそらくライラック)
    につけた名を、平安時代の学者源順(ミナモトのシタゴウ)がアジサイにこの名をあてたことから
    誤って広まったといわれている。原種は日本に自生するガクアジサイである。

    オクラはアフリカ東北部原産のアオイ科の多年草。日本では冬越しができないため1年草の夏野菜
    として育てられる。花はよく目立ち美しいが1日でしぼむ。実はあっというまに大きくなる。
    オクラは英名のokra。

             タマアジサイの花               オクラの花

          

     さらに山壁には周りを覆うようにクズが広がり、葉の間から鮮やかな花をのぞかせていた。
    やっかいもののように見えるクズも花はなかなか美しい。
    クズ(葛)はマメ科のつる性の多年草。秋の七草の一つでもある。根から葛粉がとれる。名前の
    由来は、奈良県の国栖(クズ)が葛粉の山地であったことによるという。

    この先では、小さな赤い実をいっぱいつけたヤマボウシが見られた。果実はほの甘いが酸味が
    少なく、たよりない味、さほどおいしいとは感じない。
    ヤマボウシ(山法師)はミズキ科の落葉高木。山法師とは比叡山の僧兵のことをいうが、
    ヤマボウシの4個の白い花びら(総苞片)を頭巾に、その中心にある球状の花を頭に見立ててこの
    名があるという。

              クズの花                ヤマボウシの実

          

      酒々井駅付近  2016.8.28

     今年の8月も連日の猛暑でなかなか外に出て行く気がしなかったが、8月28日は台風10号の
    影響で最高気温も25度前後に下がったため、久しぶりに酒々井付近の田園を散策した。
    農道を歩いているとき、休耕田いっぱいに広がっているタコノアシ(蛸の足)が眼についた。
    ユキノシタ科の多年草で、茎の先に花序が箒のように広がり、花や実がびっしり並んだ姿がタコの
    足のように見えることからつけられた名前だという。

    別の農道に入って行くと今度はコバギボウシが群がるように生えていた。キジカクシ科の多年草で
    高山から里山まで見られる。ギボウシ類の若葉はウルイと呼ばれ、山菜の中でも美味しいものの
    一つらしい。この仲間の若いつぼみが、擬宝珠に似ていることからこの名があるという。

              タコノアシ                コバギボウシ

          

     これで千葉の里山散策は終わりにしたい。植物は春ほど華やかではなかったが思った以上に
    様々な花々が見られ、活発に
動き回る野鳥や昆虫の姿も面白かった。
      

                          千葉の里山散策   ―了―

                              2016.8.31 記

                        私のアジア紀行 http://www.taichan.info/