スリランカの自然紀行 (動物サファリとバ-ドウオッチング) 2016・2.18~2.27 前方に現れたレオパ-ド ヤ-ラ-国立公園 2016.2.22 スリランカはインド大陸の南東部に浮かぶ島国である。かってはセイロン島と呼ばれていた。 国土は66、000㎢、北海道の8割位しかないが2000万人余が住み人口密度が高い。そして動物や 野鳥の楽園でもある。豊富な水源と肥沃な大地、緑豊かな自然に恵まれているからだろう。 国土の大半は平野部が占めるが、中央部のやや南よりから奥地へ行くにしたがい風景は高原から 山岳地帯へと移り変わり、最高峰のビドゥルタ・ラ-ガラ山(2524m)へと続く。さらに南側の 山々はゆるやかな傾斜をなして平野部へ落ち込んでいる。この中央高地からはいくつかの河川が 放射状に流れだし、平野部から海岸線を潤しながらインド洋へ注ぎこんでいる。 私は昨年につづき今年の2月再びスリランカを訪ねた。ヤ-ラ-国立公園の自然の風景や、 そこに棲む珍しい動物や野鳥に魅せられたからである。昨年は仏教寺院群を経めぐり、最後に ヤ-ラ-国立公園を訪ねる一般的な観光だったが、今回のツァ-は動物サファリやホエ-ル ウオッチングなど、自然観察だけを目的として企画されていたことが、再びこの国を訪ねる大きな 動機になった。 スリランカの地図(イメ-ジ) (東) (西) 2月18日 成田11時15分発予定のUL-455便はやや遅れて空路スリランカへ向かい、10時間後の18時前 コロンボ空港に到着。入国手続きを済ませ迎えのバスに乗って30分位走り、20時前ニゴンボの ホテルにチェックインする。時差は日本の3時間半遅れ。 2月19日 早朝6時、うっすらと夜が明けコテ-ジ風のホテルの窓から外を覗くと、黒いシルエットになった ヤシの木陰から赤く染まった空が見える。そろそろ日の出の時間だ。静まり返っている庭内から 野鳥の鳴き声が聞こえる。熱帯の夜明けだが朝は涼しい。 赤く染まるニコンボの夜明け 庭内にはココナツ、プルメリア、マンゴ-、ジャックフル-ツ、チ-クなどの熱帯性の樹木が 生い茂る。 マンゴ-の幹の低い所に黄色い花が咲いていた。なかなか可愛い。着生ランの一種だと思われる。 着生ランは、ヤドリギのように樹木から養分を吸い取る寄生植物ではない。空中の湿気や霧、 樹木や岩を伝わる雨から水分を得ている自生植物なのだそうだ。ラン科植物の80%が着生ランと 言われ、亜熱帯から熱帯に多い。随分前になるが、私はボルネオのコタキナバル郊外の森で数多く の着生ランを見たことがある。 着生ランの一種 ジャックフル-ツの実 いよいよ「スリランカの森と海、ネイチャ-スペシャル」の旅が始まる。メンバ-はツア- 客10人とネイチャ-ガイドのウパリさん、ドライバ-のスサンタさん、アシスタントの パラギ-トさん、それに若い女性添乗員小杉さんの総勢13人。 7時50分ホテル出発、ホエ-ルウオッチングの拠点となるミリッサに向かう前にニゴンボの漁港に 立ち寄る。昨年は夕刻でもあり風強く海はシケていたため人影もまばらだったが、この日は大勢の 人出で賑わっていた。魚はニコンボ沖で獲れたものらしい。砂地に敷かれた網布には、天日干しに されたイワシ、カツオ、アジに似た魚などがところ狭しと広げられ、そのそばで干物にするためか 漁師がカツオをさばいていた。なかなか手際がよい。 市場にも様々な魚が並べられ賑わっていたが、すでに色は紫色に変わり鮮度はひどく落ちていた。 刺身にして食べる習慣がないものの、もう少し保存技術をとり入れればよいのにと思う。しかし この漁港の素朴な風景は、私の少年時代の風景と重なり合い懐かしく感じた。私の故里は山間の 小さな農村と海岸が隣り合う山陰の田舎町、こうした風景を見ながら育ってきたのである。 天日干しにされたカツオ 魚をさばく漁師 ニゴンボの漁港から40分近く走りオランダ水路を散策する。この水路はオランダ時代につくら れた全長129mに及ぶ運河で、今でも人々の生活物資を運ぶ動脈として使われているという。 私たちが訪れたのはその一角。幅20~30mぐらいの水路が真っすぐに伸び、対岸には高く聳え 立つヤシの木々が静かな水面に影を落としている。 道脇にはホオノキのような大きな葉をもち、ところどころ紅葉した木々が川面に覆いかぶさり、 河岸を縁どっていた。ガイドのウパリさんに名前を聞くとタ-ムネリアだという。英名かもしれ ない。南国らしいのどかな散策路だ。しかし湿気が多い、歩くと首筋から額にかけてじっとりと 汗が噴き出してくる。 河岸に聳え立つヤシの木 タ-ムネリア? 散策路をゆっくりと歩いて行く。水路に集まる野鳥観察である。歩きはじめてしばらくすると 「アッ、あそこにアオショウビンがいる!」と誰かが叫んだ。 「どこ、どこ?」・・・ 「ホラあの木の枝に止まっているでしょ」メンバ-の一人が指さす方向に眼を向けるが見つから ない。 「どこどこ、どこにいるの?…さらに聞いてみる。 「あそこ、あそこよ」…親切に教えてくれるのだが、それでも分からない。とその時、1羽の青い 鳥が飛んでいくのが見えた。アオショウビンらしい。カワセミより大きく、鮮やかな青色をした 美しい鳥だ。しかしカメラに捉えることはできなかった、残念。…ところがほどなく、民家の屋根 に止まっているアオショウビンが眼に入った。さらにバスの方に引き返す途中、電線にも止まって いた。夢中でカメラを向ける。 アオショウビン 調べてみると、アオショウビンは中東から東南アジア、インドやスリランカにもよく見かける カワセミの仲間。体長は約25cmほど。くちばしと足は赤く、眼は黒い。頭から腹までは濃い 茶色、のどは白色で翼の縁と背中はあざやかな空色。 対岸の茂みに水面をすべるように泳ぐワニがいた。いや、ミズオオトカゲのようだ。かなり 大きい。2m位はあるだろう。ミズオオトカゲは東南アジアやインド、スリランカなどの熱帯に 生息し泳ぎが上手い。何年か前、ボルネオのコタキナバル沖の島で見たミズオオトカゲは、地上 を動き回ったり鋭い爪を使って樹上に登ったりしていた。 ミズオオトカゲ バスに乗る前、大木の樹間を動き回る数羽の鳥がいた。ハトよりは少し小さく見える。日本にいる シロハラやアカハラ位の大きさか。野鳥に詳しいM・Jさんに聞くと、キバシヤブチメドリと教えて くれた。 英名はYellow-BIlled Babbler 木枝に止まるキバシヤブチベドリ メンバ-の話によると、この他にも散策路にはいくつかの珍しい野鳥が見られたそうだ。 その後南西海岸をひたすら走り14時頃ゴ-ルに着く。 ゴ-ルはスリランカ南部最大の街。古くから世界各地からやってくる商人たちの貿易地として栄え てきたが、16世紀末にポルトガルが入植して砦を築き、17世紀中頃にはポルトガルから支配権を 奪ったオランダが砦を拡張していった。18世紀末にはオランダからイギリスの統治下になったが、 要塞はそのまま残された。現在見られる要塞や建物のほとんどはオランダ時代のものだという。 城塞に囲まれた旧市街を散策する。オ-ルドゲ-トをくぐり抜け上を見上げると、壁にライオン 馬が向かいあった像が刻まれてあった。オランダ時代の東インド会社を象徴する紋章らしい。 とオ-ルドゲ-トからレストラン、ホテルなどが立ち並ぶ通りを歩き、オランダ教会を覗く。 18世紀半ばに建てられたものでスリランカでは最も古い教会だという。中には大きなパイプ オルガンが置かれてあった。 オランダ時代の東インド会社を象徴する彫刻 オランダ教会のパイプオルガン オランダ教会から坂道を下り、海岸に出て砦に上って行くと時計塔があり、前方に白い灯台が 見えてくる。右手はインド洋、荒波が白いしぶきを飛ばしながら岩に砕け散っていた。右手は瀟洒 な赤レンガの家々が重なり合い、どこかヨ-ロ-パ風の雰囲気を感じる。 岬の先端に建つ高さ18mの灯台 オランダ時代の瀟洒な建物 ゴ-ルを離れさらに南に向かって走って行く。途中ウミガメ保護センタ-に立ち寄り、16時過ぎ ミリッサのホテルにチェックイン。 ホテルは海岸のそばに建てられ、裏からは子供たちの泳ぐ姿や数多くのボ-トや漁船が見られた。 ここほほぼスリランカの南端にあり、ホエ-ルウオッチングの拠点もこの近くにある。 ホテル裏の風景 2月20日 ホエ-ルウオッチンゴの日である。 6時バスに乗りホテル出発、6時20分ミリッサ港に着く。すでに港には多勢の観光客が来ていた。 そのほとんどはヨ-ロッパ系の人たち、日本人は見当たらない。私たちは専用の貸し切り船に乗り 込んだ。思ったより大きい。階上には船長の他に乗組員3人がいる。みな若い青年たち、私たちを 案内してくれる人たちだ。 夜が明けてきた。東の空が赤く染まりはじめ、黒いシルエットとなったヤシの森が海岸線を縁ど っている。港には漁をしているのか何艘かの小舟も見える。 早朝のミリッサ港の風景 私たち専用の貸し切り船 これから私たちは深い海域のあるドンドラ沖まで走り、シロナガスクジラに遭遇しようとして いる。シロナガスクジラはクジラの中でも最も大きい。体長20~34m、体重は80~190トン、 口を開けると10m近くになるというからスゴイ。この地球上で最大の動物だ。そのシロナガス クジラがドンドラ沖では年中見られるという。ふつうクジラの多くは冬は北極海や南極海を回遊し、 夏には熱帯や亜熱帯で繁殖を行うというが、シロナガスクジラが年間を通じてこの海域に棲み ついているというのは、何かの秘密があるのかもしれない。 いよいよ出発。多少胸をワクワクさせている。私は船首近くに腰かけ海を見つめていた。 次第に日が高くなり船首に強い日差しが当りはじめ熱くなってきたが、それでも我慢しながら広い 海原に眼をこらしていた。どこかにクジラが現れないか、見逃してなるものか...今か今かとじっと 待っていたのである。しかし何も現れない、見えるのは青い海と波のうねりだけ。...1時間位が 経っただろうか、その時 「ドルフィン!、ドルフィン!」...という声が聞こえた。乗務員らしい。小杉さんも 「イルカです、イルカがいるそうです」...と教えてくれた。乗務員が指さす方向を見ると群れを なして跳びはねているイルカが眼に入った。あわててカメラを向けるがすぐ水中にもぐってしまう。 撮れない。するとまた現れた。今度は反対方向だ。船のすぐ下にも来ている。その度にカメラを 向けるが焦点が合わない。船が上下に揺れ、液晶モニタ-画面も光が強すぎてよく見えないのだ。 わずかに写っていたのはカメラの端、それも海の水平線が大きく斜めに傾いている。ただ船の下に 来たときには、水中を泳ぐイルカらしき影が写っていた。名前はハシナガイルカ。 船のすぐ下に来たイルカ その後もイルカはときどき辺りを跳びはねていたがいつのまにか姿を消し、再び海は静かに なった。見渡す限り海原は無数のうねりをたて、一定のリズムで白いしぶきを飛ばしている。 一瞬三角波が大きく盛り上がり白い波頭が見えると、 「クジラか!」...と思ったがそうではなかった。そこはまた元の海面に戻り、果てしなく波の うねりがくりかえされていた。 先程まで後方の遙か遠くに見えていた陸地の影もすでに見えなくなった。水平線の彼方には タンカ-らしき船影がぼんやりと浮かび、遠く近く何艘かのホエ-ルウオッチング船も見える。 わがホエ-ルウオッチング船もスピ-ドを上げながらどんどん南下している。しかしクジラの姿 は見えない。いったいどこまで行くのか...海を見つめ続けていた私もすこし疲れてきた。 「ホントにクジラはいるのか?...あの巨大なシロナガスクジラも、この広大な海で見つけるのは 大変なのだろう。いや見つかるもんか、今日はダメだろう」...などと思いはじめた。メンバ-の 一人は誰にともなく「もうクジラは出ないよ、諦めてホテルに帰って一眠りしたいね」...と つぶやいていたが、私も同じ気持だった。すでにクジラのことは諦めていたのである。ところが 小杉さんは「諦めるのはまだ早いですよ、もう少し待ちましょう」...と言っている。 海上を走るホエ-ルウオッチング船 急に船内は静かになった。聞こえるのは船のエンジンの音と波のざわめきだけ。気がつくと みな居眠りしている。ある者は日影の椅子で、ある者は屋根下の台の上で…ガイドのウパリさん も後方の椅子にどっかりと座り、腕を組んでぐっすり眠っている。みな寝不足で疲れているの だろう。みなクジラのことは諦めているようにも見える。私も眼をつぶりウトウトしはじめた。 それから長い時間がすぎた。イルカに遭遇してから2時間以上は経っている。とその時、 「ヤッ!、ヤッ!、ヤッ!」…という大きな叫び声が聞こえた。眼を開けると、若い乗務員が前方 を指さしていた。クジラが現れたらしい。ついに、シロナガスクジラが姿を見せたというのだ。 船はクジラが出た方向に猛スピ-ドで走りはじめた。私は揺れる船内をヨロヨロしながら前の 方に移動、海上に眼を向けるがなかなか眼に入らない。やっと見つけたときは、クジラはすでに 大きく尾を上げて海中にもぐりこもうとしていた。カメラを構えるどころではなかった。再び クジラが現れるのを待つ。10分、15分…すると、 「ヤッ!、ヤッ!、ヤッ!」…また乗務員の大声、今度は別の方角に出た。あわててカメラを向け るが遙か遠い。しかもモニタ-画面が見えない。やたらにシャツタ-を押す、めくらめっぽうだ。 しかし写っていたのは波のうねりだけ。カメラにクジラは入つていなかった。次のチャンスを待つ しかない。 するとまた現れた。大きな潜水艦のようだ。今度は近い、と言っても60~70m位はありそう。 その方角に何度もシャッタ-を押すが、うまく捉えられない。レンズがゆらゆらして焦点が合わ ないのだ。 クジラは潮を噴き上げながら浮上、白波をたて巨体を見せたかと思うとすぐに潜って行く。その間 10秒位。かろうじて写っていたのはクジラの背と尾びれ、それもカメラの隅に、残念…。 シロナガスクジラ この日現れたクジラは3~4頭ということだった。とにかく私たちはインド洋のドンドラ沖に 住むシロナガスクジラを眼にすることができたのである。その後船は向きを変えてまっすぐ走り、 12時過ぎミリッサ港に到着。昼食後はホテルで休憩する。 2月21日 午前中ホエ-ルウオッチング、午後はゴ-ル経由ヤ-ラ-へ この日も午前中はホエ-ルウオッチング。5時45分ホテル出発、6時ミリッサ港に到着し、 ほどなく出港。6時過ぎ朝日が上りはじめ、ミリッサ港の空を赤く染めてゆく。インド洋に昇る スリランカ最南端の日の出である。今日も天気はよさそうだ。 インド洋に上る朝日 船は太陽に向かって進んで行く。波はおだやかに見えたが前日より高い。船は上下左右に揺れる。 港を出てから40位経っただろうか、 「ヤッ!、ヤッ!、ヤッ!」…乗務員の大声が聞こえた。見ると群れをなしたイルカが、跳びはね ながら私たちの船と伴走している。その姿は船との競争を楽しんでいるかのようにも見える。 彼らは好奇心が強いのか、人間に興味津々のようだ。この辺りで私たちを出迎えてくれていた のかもしれない。 反対方向にも現れた。よく見るとその先にも、その後方にも…いずれも10数頭の群れで跳び はねたりもぐったりしている。スピ-ドも早い。カメラを向けるが大きな揺れによろめき翻弄され、 そのスピ-ドにタイミングが合わない。群れのはずだが、写っていたのはカメラの端に1~2頭。 跳びはねるハシナガイルカ やがてイルカの群れは見えなくなり、ひたすら南へ南へ走って行く。船の揺れはさらに激しく なり、波のしぶきが船内に飛び散って衣服を濡らし、左右の通路に水が流れはじめた。 私たちは船の中央に避難する。ただ眼だけは海の方に向いている。クジラが現れるのをじっと 待っているのだ。 「しかしクジラが現れるのはまだ早い、前日は3時間以上も待ったのだ。まだまだ先のほうだろう」 …そんなことを思っていたとき、突然 「ヤッ!、ヤッ!ヤッ!」…乗務員が大声を上げながら前方を指さしている。クジラが現れたのだ。 意外に早い、そこには潮を噴き上げているシロナガスクジラガの姿があった。しかしあまりに遠い、 一旦カメラを向けたが諦めた。とても撮れそうになかったからである。 気がつくと、どこから現れてきたのか、何艘もの船がクジラの出た方角に全速力で走っている。 わが船も猛スピ-ドを上げはじめた。たちまち10艘位の船が集まってきた。しかしクジラの姿は すでにない。 船はエンジンを止め、クジラが出るのを待っている。待つこと10分、20分…すると 「ヤッ!、ヤッ!ヤッ!」…乗務員はあらぬ方角を指差している。今度もやはり遠い。わがカメラ 技術ではとても撮れそうにない距離だ、あきらめる。 時刻は9時前、早めに切り上げてミリッサ港へ向かう。途中海面をユラユラと漂うウミガメがいた。 この果てしない海のどこに行くのだろう、はてさてこの深海のどこかに竜宮城でもあるのか…。 10時30分ホテルに帰着。昼食を終えて裏庭に出てみると、左前方の小岩になかよく並んでいる 水鳥の群れが見えた。オオアジサシらしい。日本でも夏季に小笠原諸島や琉球列島に見られると いう。 海岸の岩に整列するオオアジサシ 13時ホテル出発、ヤ-ラ-国立公園近くのティッサマハ-ラマへ向かう。スリランカの南海岸 を東へ走り、14時30分タンゴ-ルのレストランでティ-タイム。ここもリゾ-ト地になっている のか、海岸で泳いだり日光浴を楽しんでいる観光客の姿があった。 車はさらに東へ向けて進み鬱蒼とした森の沼地に出たところで、水鳥の大群が眼に飛び込んできた。 いちばん近くにいたのがセイタカシギ。赤色の長い足でスックリと立っている姿を見ていると、 ”小さな湖上の麗人”とでも言いたくなる。東京湾の沿岸でもときどき眼にする野鳥だ。 セイタカシギ セイタカシギの向うには大型のシラサギが群れをなし、その中にインドトキコウもいた。 いずれもエサを探しているのか、ゆっくり動いたり止まったりしている。沼にはたくさんの小魚や 貝がいるのだろう。インドトキコウはコウノトリ科に分類される。 ウパリさんの声で右前方に眼を向けると、木枝に止まっているカワセミがいた。何かに狙いを つけているようにも見える。この小さな野鳥が、色鮮やかな青緑色の翼を見せながら空中を滑る ように飛翔している姿は、煌めく宝石のように美しい。渓流のエメラルドとも言われているそうだ。 インドトキコウとシラサギ 木枝に止まるカワセミ ティッサマハ-ラマ近くになって、湿原となった大きな沼地に出た。当初訪ねる予定だった スリランカ南端の岬を見すごし通り過ぎたため、代わりにウパリさんが案内してくれたのである。 沼は一面にスイレンの葉で覆われ、その中にエサをあさる様々な野鳥が見られた。湿原に生える 木枝には鮮やかな緑色をした小鳥も止まり、頭上の高いヤシの葉には悠然と羽づくろいしている 猛禽の野鳥もいた。首から頭にかけて白いタカだ。いずれも私が初めて眼にする珍しい鳥ばかり である。名前はメンバ-の人に教えてもらったり、図鑑で調べたもの。 アマサギとカラス ヘビウ シロガシラトビ ハリオハチクイ インドアカガシラサギ? レンカク セイケイ アマサギは日本にも渡来している。初夏になると水田などで時々見かけることがある。冬羽は 白だが、4月以降は首から頭にかけて黄色に変わる。遠くからはアマサギの背にカラスが止まって いるように見えたが、枯枝の先にカラスがアマサギに寄り添うように止まっていたからだろう。 ヘビウは頭が長く首を水面上に出して泳いでいる姿が、ヘビに見えることからつけられた名前 だという。 シロガシラトビは名前の通り、羽毛が首から頭にかけて白い。日本でもまれに西表島や石垣島に 現れることがあるらしい。なかなか精悍な顔つきだ。 ハリオハチクイはハチクイの仲間で尾が青い。ハチクイの和名の由来は、ハチなどの昆虫を 飛翔しながら捕食することからつけられたと言われる。 レンカクは本種のみのレンカク科の鳥。黒褐色と白色の羽根をもち、尾が長い美しい鳥だ。 漢字で.は「蓮角」と書くが、スイレンなどの葉の上を自由にわたり歩くことからつけられた ものか?...。 セイケイはクイナ科に分類される鳥。体長は約50cmで、日本にいる同じ仲間のバンやオオバン よりもかなり大きい。赤い頭が緑のスイレンに映えてよく目立つ。 沼地を離れさらにティッサマハ-ラマのホテルに近づいたころ、突然ウパリさんが前方を 指出し大声を上げた。 「スト-クビレッド、キングフィッシャ-!」と言ったのかもしれない。見ると電線の上に大きな くちばしをもった鳥が止まっている。和名ではコウハシショウビンと呼ばれ、スリランカでは最も 大きなカワセミの仲間らしい。近づいてカメラを向けても平然としている。微動だにしない。 私たちはトイレ休憩を兼ねて長い間そこに留まっていたが、バスを出発するときも依然電線の 上から動く気配はなかった。羽根は青色、腹部はオレンジ色、嘴は赤い。 漢字では広嘴翡翠と書く。広く長い大きな嘴をもったカワセミという意味か?...。 ショウビン(翡翠)はカワセミの別称。宝石のヒスイ(翡翠)はカワセミの鮮やかな水色に由来して いる。ショウビン、ヒスイは漢字では翡翠、カワセミは川蝉、あるいは翡翠とも書かれる。 コウハシショウビンの体長は約35cm、カワセミは約14cm。 コウハシショウビン その後40分ほど走り、18時頃ホテルに到着。 2月22日 ヤ-ラ(ルフヌ)国立公園のサファリ この日はヤ-ラ国立公園でのサファリ。このツア-で、私がいちばん楽しみにしていたところだ。 スリランカにはいくつかの国立公園、自然保護区が点在しているがヤ-ラ国立公園はその中の一つ。 各国から訪れる観光客に最も親しまれている自然公園である。面積は976㎢で5つのブロックに 分かれているが、一般公開されているのは1ブロックのみ。 早朝5時40分、私たちは6席の椅子が設置され、小型トラックを改造したようなオ-プンカ- 2台に分乗しホテル出発。私の席は2号車の左側の真中。20分ほど走り、6時頃公園管理棟近く に着く。 すでに道路脇には入園手続きを待っている多数の車が止まっていた。ドライバ-が入園手続きを するため管理棟に歩いて行ったが、30~40分位かかりそうだ。その間私は車から降りて、近くを ぶらぶら歩いてみることにした。といっても私たちの車が見える範囲内、遠くへは行けない。 道を渡って低い樹林をぬけると湿地帯が広がり、数羽のサギがエサをついばんでいた。ときに 飛び立ったり舞い戻ったりしている。インドアカガシラサギのようだ。そのヒラヒラと飛んでいる 姿は、茶褐色と白が映え実に優雅だ。日本にいるケリの飛ぶ姿によく似ている。 インドアカガシラサギ 辺りには鳥の鳴き声が聞こえている。見上げると、梢の上を忙しく飛び交っている小鳥たちが いた。 時々木枝に止まったりする。その可愛い姿をいくつかカメラに収めてみたが、私は野鳥について ほとんど知識をもっていない。下の写真は、その時人に聞いた名前をたよりに帰国後図鑑で調べ たもので、正確ではないかもしれない。 シリアカヒヨドリ コマドリの一種(Indian Robin?) キバシヤブチメドリ 入園手続きを済ませたドライバ-が帰ってきた。6時40分出発、ほどなく公園入り口を通過する。 舗装された道路が切れ起伏の多い道に入ると、車は小刻みに揺れはじめときに大きく傾く。辺りの 木々は朝日に照らされ赤く輝いている。大地も赤い。 低い灌木帯をぬけると急に視界ひらけ、森に囲まれた沼に出た。そこにはたくさんの水鳥が集まり、 どの鳥もじっと水面に眼をやっていた。朝餉の餌でも探しているのだろう。 水鳥が集まる湖畔の風景 岸辺では数羽のアオサギが水面に眼をこらし、インドトキコウはさかんにエサをついばんで いた。昆虫でも捕えたのかもしれない。アオサギはサギ科、インドトキコウはコウノトリ科に分類 される。 アオサギとインドトキコウ インドトキコウ 車は灌木帯の間を走ったり草原に出たりする。みな何が現れるかひたすら辺りに眼を配っている。 そのためか、時々大きく揺れることもあるがあまり気にならない。周りの風景も明るく湿気も 少ない。楽しいサファリだ。 私たちは動物や野鳥が住むむヤ-ラ-の森に入っている。いや、国立公園などいう勝手な名前を つけているが、彼らが住む領域に人間が入らせてもらっているのである。 1号車のウパリさんが前方上を指さしている。見ると、長い尾羽を下げたクジャクが高い梢に 止まっていた。クジャクは樹の上で寝るというが、まだ目覚めていないのか...。 草原では何かをついばむメスのクジャクがいた。オスのような華やかな尾羽はないが、これは これでまた美しい。それにしても昨年来たときは、いたるところで大きく羽根を広げて舞う クジャクが眼についたが、今回は全く見られなかった。すでにクジャクの恋の季節は終わったの かもしれない。 インドクジャク(雌) 樹上のインドクジャク(雄) 大きく羽根を広げて舞うクジャク 2015.2.09 森の木枝に小鳥が止まっていた。とても可愛い。ミドリハチクイのようだ。人間を見てもあまり 恐れない。それどころか「私の姿を撮って」…とでも言っているように思える。 他の野鳥や動物も人間を見ても平然としている。敬虔な仏教徒が多いスリランカの人たちは殺生を 嫌い、昔から動物たちをいじめたり殺したりしていないからだろう。 ミドリハチクイの大きさは約16~18cm。日本にいるメジロよりやや大きい。 ミドリハチクイ 白いスイレンの花が無数に広がる湿地に出たところで、大型の白い水鳥が眼についた。 スキハシコウらしい。 和名の由来は、嘴の上下にすき間があいていることからこの名前がつけられたいう。タニシや ドブガイなどの貝類を食べる。南アジアに多く住むコウノトリ科の鳥。 スキハシコウ さらにスイレンの花が一面に咲き誇る沼に出る。湖岸にはこんもりした南国特有の木々と枯れ 木のようになった落葉樹が混在し、どこか異国の森の風情を感じさせてくれる。森の向うには高い 岩山も見える。展望は大きい。ここは海のそばにあり、海抜数メ-トルしかない森である。 沼にはたくさんの水鳥や野鳥が見られたが、中でもいちばん眼を惹いたのが鮮やかな色をした インドトサカゲリ。頭から足にかけて赤、白、黒、茶、黄色がくっきりと映え、とても華やかだ。 チドリ科に属し、日本に見られるケリやタゲリと同じ仲間。空を飛ぶ姿も優美にちがいない。 インドトサカゲリ スイレンの花が咲き誇る湖沼の風景 その他にも様々な野鳥が眼を楽しませてくれた。鬱蒼とした木々の間にはクロトキが、岸辺の 木枝にはアカモズが、その近くには仲良く並んだ2匹のミドリハチクイが止まっていた。その姿は なんとも愛らしい。 クロトキはインド、スリランカ、中国東部、東南アジアに分布する。かっては日本にもいた らしいが、今では西日本にまれに渡来するぐらいだという。 樹上のクロトキ 湖畔のクロトキ 2015.2.09 ミドリハチクイ アカモズ さらにやや遠い木枝に赤い小鳥がいた。ウパリさんが教えてくれたものだが、彼はネイチャ- ガイドだけあって鳥を見つけるのが非常に早い。子供のころから野鳥に興味をもちはじめ、 ケンブリッジ大学に留学して勉強したというから筋金入りの野鳥研究家でもある。ただ野鳥の 名前は英名で呼ぶためなかなか理解できない。この赤い鳥は、チャガシラハチクイではないかと 思われるのだが…。 チャガシラハチクイ? 沼を離れ移動し始めてほどなく、森の中にサルの一団がいた。私たちの方をじっと見つめて いる。 このサルはハマヌ-ン・ラング-ル。体は明るい灰色、顔は黒く尻尾が非常に長い。大事に 保護されているらしく、人間をまったく恐れないそうだ。森だけでなく町や寺院などでもよく 見かける。和名はハイイロオナガザル。 森を抜けると草原が広がり、そこで2匹のクジャクが戯れていた。と思ったがそうではないらしい。 互いにクルクルと回っているように見えたのは、やや大きい方が小さい方を追い払っていたのだ。 縄張り争いかもしれない。 ハマヌ-ン・ラング-ル 縄張り争いする2匹のクジャク 草原をぬけるとまた湿原が現れ、エサをあさったり羽根を休めている水鳥が見られた。車が 近くを通り過ぎても飛び立つ気配はまったくない。人間は危害を加えない、安心しきっている ように思う。 沼から突き出た木枝にハチクイが止まっていた。のどが赤く尾が青いことから、ハリオハチクイ ではないかと思われる。ハリオの名前の由来は、針のような細長い尾をもっているからだそうだ。 ハリオハチクイ 岸辺近くの沼に生えた白い枯れ木には、黒い鳥が止まっていた。キュウカンチョウかもしれない。 あるいは固有種のスリランカキュウカンチョウかも...。人語を話すことができるのでペットとして 飼われることがあるが、開発による生息地の破壊やペット用としての乱獲により、生息数は減少 しているらしい。九官鳥の名前の由来は、江戸時代に九官と名乗る中国人が来朝したときに、 「この鳥は私の名前を言う」..と説明したことによるそうだ。 セイロンキュウカンチョウ? 遙か遠い岩の上には大きく口を開けたヌマワニが寝そべり、少し離れた草原には首を持ち上げ 辺りを見まわしているリクオオトカゲが見られた。何とものどかな風景だ。この森は野鳥だけで なく、動物にとっても住みやすい天国なのかもしれない。 ヌマワニ リクオオトカゲ 車は草原を通りぬけ、やがて熱帯雨林の森に囲まれた広大な湿原に出た。湿原は無数のスイレン で埋められ、その間にところどころ清冽な水面が見える。遠く茂みにはゆっくりと足を運ぶ数頭の 象の姿があった。もちろん野生のスリランカ象である。 湿原を歩く象 湿原の低い木の上では濡れた羽根を広げて乾かすヘビウがいた。羽根は陽が当る太陽の方に 向けている。何ともユ-モラスな姿だ。もっとも日本でも、こうしたポ-ズをとっているカワウを 見かけることがある。 濡れた羽根を広げて乾かすヘビウ 近くに眼をやると、沼水をとりかこむ石縁にインドトキコウがポツンと佇み、その下では一心に 水面を見つめるコサギがいた。何かに狙いをつけていたのかもしれない。 インドトキコウ コサギ 湿原を離れ、海岸そばの空地に行きしばらく休憩する。ここはこの森で車から降りて休むことの できる数少ない場所になっているところ。空地では数十台の車が止められてあった。青いインドが 広がる浜辺では散策したり木陰でくつろぐ人たちが見られた。 ヤ-ラ-国立公園の休憩所より 休憩所のサファリ車 再び出発。ここで 「レオパ-ドが現れたという情報が入ったそうです!…」小杉さんが私たちに伝えてくれた。 車はスピ-ドを上げその方角に走って行く。しかしかなり遠いようだ、なかなか辿り着かない。 10数分位経っただろうか、ようやくその場所に着く。そこは起伏の大きいぬかるみになったところ だったが、何とか車を止めることができた。すでに何台かの車が来ており、前方からも数台の車が やって来ようとしていた。 レオパ-ドはどこにいるの?…と、聞きたかったがみな黙っている。声を発する人は誰もいない。 レオパ-ドは左前方の高い樹木にいたらしい…が今はその姿はない。すでにどこかに姿を消して しまっていたのだ。しかしみな待っている。ひたすら左前方の森を見上げている。レオパ-ドが 現れるのを待っている。どの車も動こうとする様子はまったくない。待つこと10分、20分…すでに 私は諦め、他を探したほうがいいのでは、と思っていた。そこで 「なんとあきらめの悪い人たちだ」…つい、つぶやいてしまったら彼女にたしなめられた。 「ふつう20分位は待つものですよ」…と。 レオパ-ドが現れたという森 さらに待つこと10数分、ようやくわが車もあきらめたのか動きはじめた。ぬかるみを抜け林道に 入ったところで急に1号車が止まった。シンとしている。誰も声を発しない。どうやらレオパ-ドが 現れたらしい。 前方に眼をやると、遠くからゆっくり歩いてくる猛獣らしき動物がいた。悠然とこちらにやって くる。その歩調はまったく変わらない。たしかにレオパ-ドだ!。 林道を歩いてくるレオパ-ド 当然私たちには気づいているはず。レオパ-ドは 「人間どもが来ている、ここは俺のテリトリ-だがまあいいだろう、写真を撮るぐらいなら」… とでも思っていたのかもしれない。 近づいてくるにつれ、その姿がだんだんはっきりしてきた。私たちを睨みつけているようにも 見える。精悍な顔つきだ。体つきもたくましい。まだ若そうだがどこかに敏捷さと気品を感じる 美しいヒョウだ。 私たちを見ながら歩いて来るレオパ-ド レオパ-ドはさらに近づき10数メ-トル手前まで来た。そして私たちから眼をそらし藪の中に 入って行った。 近づいてきたレオパ-ド 藪の中に入って行くレオパ-ド その後もしばらくこの若きヒョウの姿を探したが、再び現れることはなかった。森の奥深くに 入っていったのだろう。ガイドのウパリさんの話しによると、若い雌だったという。 このレオパ-ドはスリランカのみに生息するヒョウで、和名はスリランカ・ヒョウ。やはり 夜間に狩りをする。食性はシカ、イノシシなどを獲物とし、サル、鳥、小さな哺乳類、爬虫類、 ときには野牛まで捕食するという。他の動物たちにとっては恐ろしい天敵だが、このヒョウが いるからこそ、スリランカの森の自然のバランスが守られているのではないかと思われる。 動物にとっても植物にとっても…。 林道から明るい沼地に出たところで、対岸の落葉樹に多数の白い鳥が群れていた。その多くは 樹上ですっくりと立っているように見えるが、中には忙しく飛び回ったり舞い戻ったりしている 鳥もいる。スキハシコウと思われる。コロニ-をつくり子育てをしているのかもしれない。 スキハシコウの群れ 沼にはわずかに水面に体を出し滑るように泳ぐワニが見られたが、岸辺には倒木にさばり大きく 口を開けて休むワニがいた。今度は近い、5~6m先にいる。このヌマワニ私たちのカメラに気づい たか沼にザブン、飛び込んで行った。眠っているように見えたが起こしてしまったのかもしれない。 倒木にさばり休むヌマワニ 車はゆっくり進んで行く。何かが見えれば停めてくれる。ガイドが指さす方を見ると、高い梢に ワシが止まっていた。カンムリワシだそうだ。ただかなり遠く、木陰に隠れてよく見えない。残念。 カンムリワシ 次の沼には水牛が水浴びをし、その背中にチョコンと止まっている鳥がいた。インドアカガシラ サギに似ている。これまたユ-モラスな光景だ。鳥は水牛につく虫を探しているのか…。 この近くではセイタカシギが長い足で立って水中をにらみ、インドトキコウは嘴を水中に入れて エサをついばみ、クロトキも何かを探しているように見えた。 水牛の背中に止まるインドアカガシラサギ? セイタカシギ インドトキコウとクロトキ 午前中のサファリを終えて浜辺の休憩所に帰る途中、草原を歩く象に遭遇した。草を食みながら 悠々と歩いている。近くで見るとやはり大きい。単独で行動しているところをみるとオスだろう。 スリランカ・ゾウ このすぐ近くの湿地で、またインドトキコウに出会った。体の色が鮮やかなため、大きな風景の 中でもとてもよく目立つ。私たちが近づいても振り向きもしない、そしらぬ顔でひたすらエサを あさっていた。 インドトキコウ 12時過ぎ再び海辺に着きランチタイム。昼食は、スタッフが肉や野菜、麺類、果物などを素材 にして料理してくれ、それぞれバナナの葉でつくったカゴに入れて出してくれた。それを好きな 量だけハッポウスチロ-ルの皿にとって食べる、野外バイキング風スリランカ料理だった。 小杉さんがガイドから聞いた話によると、午前中レオパ-ドに遭遇できたのは、私たちの車を 含めわずかに3グル-プだったそうだ。この日非常にたくさんの、おそらく100台以上のサファリ 車がこの森に入っていただろうと思われるが、大半のグル-プがレオパ-ドに出会えなかった ことになる。 ヤ-ラ-国立公園は世界でも有数のレオパ-ドの生息地として知られ、第1ブロックでも 22頭いると言われているが、必ずしも遭遇できるわけではないのである。私たちは運がよかった のだ。 海辺で約2時間休憩したあと、14時30分過ぎ再びサファリへ。青い水をたたえた湖沼に出ると 多数鳥が乱舞、対岸の岸辺ではサンバ-と呼ばれる大型のシカが休み、そのそばでは セイタカシギが遊んでいた。サンバ-は角がないところをみると子連れのメスかもしれない。 青い沼の上を飛びかう水鳥 岸辺で休むサンバ- 林に入ると、木枝に2匹のハリオハチクイが仲良く止まっていた。その姿はとても愛らしい。 ”森の妖精”とでも言いたくなるほどだ。ハチクイの仲間は飛翔しながらハチを捕え、毒針を抜いて から食べるそうだ。たとえハチに刺されても、免疫をもっているため死ぬことはないらしい。 木枝に仲良く止まるハリオハチクイ 明るい草原に出るとイノシシが寝そべっていた。日本では嫌われ者のイノシシも、この森は 天国なのだろう、近くを通ってもピクリともしなかった。 草原からやや暗い道に入りかけた時、眼の前の森の中からゾウが出てきてビックリ。彼も人間を 見て驚いたのか、ゆっくり森の奥深くに姿を消した。 再び草原に出たところで今度は無心に草を食むイノシシが、その近くでは体に斑点模様のある シカが見られた。サンバ-よりは小さい。アクシスジカだ。のどかで平和な風景である。 草を食むイノシシ 草を食むアクシスジカ 草原からしばらく進むと、また無数のスイレンが広がる大きな湖沼に出た。沼の向うは緑の 森が帯のように連なり、その上に頭を出した大きな岩山が見える。大きな景観だ。 右前方の大木には、大型の白い鳥が群がるように止まっていた。フィリピンペリカンらしい。 やはりコロニ-つくっているのだろう、樹木の周りを忙しく飛び回る鳥も見られた。 まさにこの森は野鳥の楽園だ。豊かな緑の森が、草原が、無数に点在する湖沼が、鳥たちを 育んでいるのである。 フィリピンペリカン 無数のスイレンが広がる湖沼 ここから少し離れた草原には、木枝に止まるカワセミがいた。やはり美しい。緑の森のなかに あってひと際目立つ。 木枝に止まるカワセミ カワセミのすぐ近くの木枝に、黒白模様の小さな鳥が眼についた。これまた可愛い野鳥だ。 シキチョウらしい。鳴き声が美しいため、ペットとして飼われることもあるそうだ。 木枝に止まるシキチョウ 太陽が西に傾きはじめ車は出口へと走らせていたとき、突然ウパリさんが声を上げながら 左前方を指差した。見ると、湿地の草叢から体をだした鳥がいた。それまで出会った水鳥とは 違う種の、シロエリコウらしい。首は白く体は黒い。やはりコウノトリ科に属する鳥。 シロエリコウ 車は鬱蒼とした山道に入り、上りきったところで半円形の大きな岩盤が現れた。眼の前には 小高い岩山が聳え立ち、岩盤下に青い水が広がっていた。岩の上にただ1匹、気持よさそうに 日なたぼっこしていたワニの姿が印象に残っている。 岩の上に寝そべるヌマワニ 山道を下るとまた沼が現れた。対岸遠くには数十頭のアクシスジカが群れていた。ひたすら 草を食んでいるものもいれば、私たちの方をじっと見つめているものもいる。 時刻は17時半、辺りは夕陽で赤く染まりはじめている。草原も落葉樹も、またアクシスジカも...。 草原で草を食むアクシスジカ アクシスジカの近くではクジャクが遊び、沼畔では何かを追いかけているような水鳥がいた。 アオサギか、それともムラサキサギか?...首から胸にかけて赤褐色に見えることから、ムラサキ サギかもしれない。いずれもサギ科アオサギ属に分類される。ムラサキサギは、沖縄県南部では 留鳥だそうだ。 草原で遊ぶクジャク ムラサキサギ? その後車は公園を出てしばらく走り、18時頃ホテルに帰る。 2月23日 ヤ-ラ-国立公園サファリ後ヌワラエリアへ 5時30分ホテル出発、6時前ヤ-ラ-公園入口近くに着く。まだ辺りは薄暗い。しきりに野鳥の 鳴き声が聞こえる。上を見上げると、黒いシルエットとなった小さな鳥が木枝に止まっていた。 シリアカヒヨドリだろう。中天には満月が上り、夜明け前の森をほのかに明るくしていた。 夜明け前の満月 木枝に止まるシリアカヒヨドリ 6時15分、車は入園手続きを済ませヤ-ラ-の森に入って行く。そろそろ日の出の時刻なのか、 空と雲が茜色に燃えはじめ、森の木々が黒い影となって浮かび上がってきた。赤と黒のコント ラストが美しい。車窓からしばしこの風景に見とれる。 ヤ-ラ-の森 日の出前の風景 ほどなく湖畔に出る。6時30分、日の出と共に森も赤く染まりはじめ、湖面もまた赤く照り映え てきた。 赤く染まりはじめてきたヤ-ラ-の森 森の小道では水牛が出迎えてくれ、湖畔ではクジャクやインドトキコウが歩きまわり、他の水鳥 たちも湖上で朝の活動を開始しようとしていた。岸辺で長々と横たわっているワニは、まだ目覚め ていないのか、口の開け方が弱弱しい。 岸辺で横たわるヌマワニ 林の中に入って行くと高い梢にアオショウビンが、低い木枝にはハリオハチクイが仲良く並んで いた。「この森にようこそ」...とでも言っているようにも思える。 アオショウビンの英名はWhito-throated kingfisher 「のどもとが白いカワセミ」という意味。 ハリオハチクイの英名はBLueTailed Bee-Eater「青い尾の蜂食い鳥」という 意味。いずれもその特徴をよく表した名前だが、和名の捉え方とは違っている。 梢に止まるアオショウビン 仲良く並んだハリオハチクイ 森の道が交差する奥の藪縁で、なにやら動いている動物が眼についた。2匹が互いにじゃれあい 戯れている。子供のアカマング-スのようだ。なかなか可愛い。時々こちらを見ているようだが いっこうに気にしていない。むしろ私たちに興味津々のようにも見える。この子供たち、いつまで たってもそこで遊び離れようとしなかった。これまたのどかで平和な光景だ。しばし心和む思いが した。 子供のアカマング-ス 頭上の白い枯木には、カンムリワシだと思われる猛禽の鳥が止まっていた。このワシは 樹上や電柱から獲物を探し、見つけると襲いかかるという。とくにヘビを好むらしい。 しばらく見ていると、そばの木枝に2匹のハリオハチクイがやってきた。怖くないと見える。 カンムリワシは鳥類を獲物にしないそうだ。 カンムリワシとハリオハチクイ 沼に出たところで、思わず息をのむほどに美しい鳥が眼についた。インドトサカゲリだ。 長い足ですっくりと立っている姿もいい。今まで見てきた野鳥の中では、とくに華やかな色を した鳥だ。 インドトサカゲリ 沼から草原へさらに林道に入って行く。辺りは熱帯雨林が林立し薄暗い。そこで前方の車が 止まり、ウパリさんが森の樹木を指さした。フクロウがいるというのだ。暗くて私にはよく分から なかったが、その方角に向けてシャッタ-を切るとそれらしきものが写っていた。北海道に生息 するシマフクロウと近縁種のミナミシマフクロウだという。 ミナミシマフクロウ 再び沼地に出ると岸辺でゆっくりと歩いているシロエリコウが、水辺では何かエサを見つけた か、しきりに嘴を水中に入れているコサギが見られた。この沼地にも小魚や貝類が生息しているの だろう。 シロエリコウ コサギ シロエリコウ 車は草原に出たり森の中に入ったり、また沼地を通りかかったりをくり返しながら走っていたが、 やがて鬱蒼とした樹木が生い茂る第2ブロックの境界地に出る。ここの樹蔭にフクロウがいると いう情報が入っていたそうだが、すでにその姿はなかった。ここにいたのはトク・ザルと呼ばれる サルの群れ。 体は小さいが敏捷そうだ。樹間を飛び移ったり地上に降りたり、興味深そうに私たちを見つめたり していた。 暗い森の間を流れる川の向うには第2ブロックがあり、そこに入って行く数台の車があった。 おそらくこの森の環境や動物の生態を調査する人たちだろう。一般の人たちは入ることが出来ない ところだ。 森をぬけると明るい湿地に出る。朽ちた岸辺の倒木には、インドアカガシラサギ止まっていた。 水面をじっとにらんでいる様子だが、獲物でも探しているのだろう。 インドアカガシラサギ 草原を通りかかると子連れのイノシシがいた。子供を入れて10頭位だったか、しきりに草を 食みながら移動しているようだ。やはり人間を見ても逃げようとはしない。私たちの眼の前の道を 平然と渡って次の草原に歩いて行ったが、その光景はイノシシのピクニックのようにも見え、 何とも平和な気分にさせられた。 草原を歩いて行くイノシシの家族 草原からやがて浅い川が流れる岸辺に出る。ヤ-ラ-の森にはいくつかの川が流れこんで いるが、その中の一つだと思われる。中州や水辺には群れをなしたイシチドリが見られ、辺りを チョロチョロと足早に動き回ったり、中にはじっと座りこんでいるのもいた。卵でも抱いている のだろうか...。 イシチドリ その後森の出口に向かい、しばらく走ってホテルに帰る。これでヤ-ラ-国立公園のサファリ はすべて終わった。 昼食後ホテルの庭を散策していると、キバシヤブチメドリが眼についた。木の実でも落ちて いるのか庭に下りてきてさかんに何かをつついたり、また樹上に飛び移ったりしている。 6~7羽位いたが互いにケンカもせず、仲のよい鳥に見えた。インドとスリランカに生息する チメドリ科の野鳥だそうだ。 キバシヤブチメドリ 13時ホテル出発、途中休憩を入れながら5時間走り、夕刻ヌワラエリヤの町を見下ろすホテルに チェックインする。 2月24日 ホ-トンプレインズ国立公園の散策 ヌワラエリヤはスリランカの中南部の標高1868mの高地に位置する町。周りはスリランカの 中央山岳地帯が広がり、最高峰のビドゥルタラ-ガラ(2524m)や聖なる山アダムスピ-ク (2238m)などが聳え立つ。 19世紀前半イギリス植民地時代に避暑地として開かれた町で、高台の森陰からは瀟洒な英国風 のホテルや建物がのぞく。熱帯にありながら高地にあるため年間の平均気温は16度C前後、とても 凌ぎやすい。 早朝5時、車2台に分乗しホテル出発。まだ辺りは真暗、山岳地帯の澄みきった空に煌めく星座 が美しい。車は暗闇の山道を走っていたがやがて広大な高原に出る。しらじらと夜が明け森の上の 空が茜色に染まってきた。この高原は標高2000m、展望は大きい。なだらかな丘陵がどこまでも 広がり、その向うに幾重にも重なり合った山々が連なっている。 右手前方遙か遠くに、鋭い山顚を天に向けた三角状の山が見えてきた。標高2238mのアダムス ピ-クらしい。スリランカで4番目に高い山だそうだ。宗教の違いを問わず、往古から大勢の 人たちに崇められてきた信仰の山だという。スリランカの仏教徒にとっては聖なる須弥山なのかも しれない。 アダムスピ-ク 標高2238m 高原には霜が降りていたのか、地上から立ち昇った白い水蒸気が山裾を帯のように流れていた。 幻想的な風景だ。冷たい大地の気温が次第に温められ、このような現象を起こすのだろう。 ドライバ-が車を止めた。気がつくと、車のすぐそばにサンバ-がいた。人なつっこいのか、 他のツア-メンバ-の人が車から降りて体をさわりかけたが逃げようともしない。立派な角を もった大きな鹿だ。雄のサンバ-だと思われる。 水蒸気が立ちのぼる高原 立派な角をした雄のサンバ- 6時20分、ホ-トンプレインズ国立公園ハイキングの出発点に着く。日が上りはじめ森も草原も 赤く照り映えてくる。風もなく空気はひんやり、清々しい朝だ。しばらく休憩後、案内看板そばの 道を下に降りて行くと、眼の前に広大な草原が広がる。 赤く照り映える森 ホ-トンプレインズ国立公園の出発点 道沿いには、葉や茎に鋭い刺をもち黄色い花をたくさんつけた低木が見られたが、これは エニシダの仲間。原産地は西ヨ-ロッパで日本にも園芸種として入ってきている。 よく整備されたゆるやかな坂道を上りきると、紅葉した広大な高原が眼に入ってくる。高原は なだらかに起伏して広がり、その一部を群落したシャクナゲが占めていた。シャクナゲはまだ蕾、 花が咲くのはもう少し先のようだ。 草叢には小さい野鳥がひそんでいた。日本でも見られるセッカのようだ。スズメに似ているが、 スズメより小さい。体長は約13cm。 紅葉したホ-トプレインズ高原 シャクナゲの蕾 草叢にひそむセッカ 高原から林道に入ったところで眼についたのが若葉をつけた樹木。シロダモらしい。日本に あるものと近縁種だと思われる。クスノキ科の常緑高木で、葉の裏面は白く3本の脈が目立つ。 秋には黄色の小さい花をたくさんつけ、同じ時期に熟す赤い果実は鮮やかでとても美しい。 日本では春先になると白い若葉を出してくる。その葉のかたちが兎の耳に似ているので、 ”ウサギの耳は白だもの(シロダモ)”と覚えておくとよい。 道端にはピンク色の小さい花がたくさん咲いていた。葉は対生し花びらは3弁、葉も花も形は 違うが日本の山地に生えるハグロソウに似た雰囲気を感じる。そうだとすればキツネノマゴ科の 仲間になるのだが…。 シロダモの近縁種と思われる樹木 キツネノマゴ科の仲間? その他にも道端に咲く赤や白、黄色の見知らぬ野草や樹木の花が、眼を楽しませてくれた。 白く小さい花を散房状につけ、ヤマハハコを思わせるような野草、バラ科の仲間ではないかと 思われるピンク色の花をつけた低木、、花はセンブリの形をしているが、葉はユリ科に似た 薄紫の野草、葉は3つの脈が目立ち、白と赤が混じる花びらからオシベを高く突き出した樹木、 花はビヨウヤナギに似ているが、鋭い葉を羽状につけた低木、シソ科の仲間だと思われる、白と 赤の混じる唇弁花をつけた野草などなど…。ただ初めて出会うものばかりで、名前は分からない。 ホ-トプレインズの林道で出会った植物(名前は不明) 木々の間からは熱帯性の原生林に覆われた山々がのぞくが、樹木は鮮やかに紅葉したものが 多い。若葉なのか、それとも緑の葉が赤く色づき落葉していくのか…と思ったが、右の写真を みると芽ぶきの若葉のようだ。 赤く色づいた葉が混じる熱帯の樹木 林道はほどよい明るさに保たれ歩きやすい。ときどき樹上から野鳥のさえずりが心地よく響く。 ウパリさんが口笛でその鳴き声を真似るが実に上手い。それに野鳥が呼応してくるのだ。 ハイカ-たちは欧米人が多い。グル-プや家族連れ、中にはアベックもいる。 森をぬけると大きな展望が広がる稜線に出た。左手は断崖となって切れ落ち、右手はゆるやかな 草原が広がり、その向うに原生林の山々が連なっている。稜線上の大きな岩には看板が置かれ、 リトル・ワ-ルズ・エンドと書かれていた。 ここで小休止のあと右手の道をとり、気持のよい草原を見ながら山腹を巻いて行く。再び林道に 入り歩きはじめてほどなく、不思議な植物に出会った。色は鮮やかな赤、葉はないように見える。 葉緑素をもたないランの一種かもしれない?・・・。 葉緑素をもたないランの一種? やがて急に視界がひらけ、前方に展望を楽しんでいる多勢の人たちが見えてきた。 ワ-ルズ・エンドに着いたらしい。左手は鋭い断崖が切れ落ち、深い谷に落ち込んでいる。 その落差は1000mもあるというからスゴイ。覗きこむと足がすくんでしまう、とても谷底まで 見ることはできない。 ワ-ルズ・エンドとは”地の果て”という意味らしいが、なかなかいい名前をつけたものだ。この 名付け親は想像力豊かでロマンチックな人物にちがいない。 ワ-ルズ・エンドの風景 右手にはこんもりとした木々の間になだらかな草原が広がり、やや遠くにはそれをとり囲む ように原生林に覆われた山々が連なっている。眼下には柔らかい日差しを浴びた黄色い花々が 見える。降りて行って散策したくなるようなところだ。ここは”地の果て”にあらず、のどかで 気持のよい高原の雰囲気を感じる。 ワ-ルズ・エンド高原の風景 ワ-ルズ・エンドから引き返し、森に入ったところでシャクナゲの花が咲いていた。真紅の花を つけとても鮮やか、周りの緑に映えひときわ美しい。シャクナゲは日本はもちろんヒマラヤの 寒冷地などでも眼にしているが、熱帯で見るのは初めて。この仲間は世界の非常に広い範囲に 分布するという。熱帯でも亜寒帯でも、それぞれに生きる術を備えた強い生命力をもった植物なの だろう。 ホ-トンプレインズの森に咲いていたシャクナゲの花 リトル・ワ-ルズ・エンドから林道に入ったところで、数株の白い花がひっそりと咲いていた。 ウパリさんさんに聞くと英名は”Exacm Walkeri”。固有種で、この林内の通りの 200mの範囲だけ見られる野草だという。葉は対生、花びらは5枚、どうやらリンドウ科の植物 らしい。 リンドウ科の花 その後林道から高原を歩いてハイキングの出発点に戻り、迎えの車でヌワラ・エリヤへ向かい 昼前ホテルに帰着。 12時過ぎ街中を散策。昼食後はキャンディへ。夕刻の早い時間にキャンディのホテルに チェックインする。 2月25日 キャンディ~スパイスガ-デン~シギリヤ 9時キャンディのホテル出発、10時半頃スパイスガ-デンに着き、日本語のできる係員に案内 してもらった。ここは昨年も訪れているところ。 園内には様々な香辛料の植物が茂り、興味深かった。見られた植物はバニラ、カカオ、コショウ、 カルダモン、シナモン、パイナップルなど。 バニラはツル性のラン科の植物で木にからみつき、カカオはアオイ科の常緑樹で楕円形の 果実をつけ、コショウは木にからみつきながら粒状の実を垂れ下げていた。日本の海岸近くの 山林などで見られる、同じコショウ科のフウトウカズラによく似ている。 カカオの実 バニラの葉 コショウの葉と実 花や実を根元から出す不思議な植物があった。ショウガ科に属するカルダモンだ。高貴な香りが あり、カレ-料理や紅茶などに入れるととても美味しいらしい。スパイスの女王とも呼ばれている。 原産地はインド、スリランカ、マレ-半島。 花や実が出るカルダモンの根元 カルダモンの葉 昨年は白い花を咲かせたコ-ヒ-の木も見られたが、今回は気づかなかった。シナモンも 植えられていた。クスノキ科で日本のクスノキやヤブニッケイと同じ仲間。ニッキとも呼ばれる。 料理やお菓子、紅茶などに使われるほか、シナモンから採れるオイルは、歯痛や頭痛などの鎮痛 効果があるらしい。材料にするのは樹皮だが、葉にもクスノキ科特有の香りがあった。 カルダモンがスパイスの女王ならば、こちらはスパイスの王様と呼ばれている。主産地は スリランカ。 白い花をつけたコ-ヒ-の木 2015.2.6 シナモンの木 ひととおり巡回したあと、係員がスパイス植物を原料とする薬用商品や化粧品について説明、 一部の人には足のマッサ-ジのサ-ビスもしていた。商品は別室に数多く並べられ、買う人も かなりいたように見受けられた。 園内に小さなトカゲがいた。眼はクルリとして、尻尾は体の3倍ぐらいありそう。ゆっくり 動いていたがなかなか愛嬌のあるトカゲだ。 スパイスガ-デンにいた小さなトカゲ スパイスガ-デンから道を渡ってレストランに移動する。ここの庭にもカラフルな花がたくさん 咲き、眼を楽しませてくれた。温帯性の淡い色のものは少なく、熱帯の植物は原色の濃い色のもの が多い。帰国後調べて、いくつか分かったものもある。 オウムバナ科 Heliconia アカネ科 サンタンカ属 Ixora coccinea アカネ科サンタンカ属 Ixora chinensis in China 昼食を終えて庭に下りてみると、眼の前でチョロチョロ動いている鳥がいた。ときに木に飛び移ったり、 また下に舞い戻ったりしている。シリアカヒヨドリだ。名前の通りお尻が赤い。今までも何回か眼にして いる鳥だが、こんなに近くで見るのは初めて。丸い眼で小首をかしげている姿はなんとも愛くるしい。 シリアカヒヨドリ 上を見上げると、ココナツの木に止まるシキチョウ(四季鳥)が眼についた。エサとなる昆虫 でも探しているのか、しきりに辺りを見回している。名前の由来は四季を通じて美しい声で鳴く から、という説がある。英名はOriental Magpie Robin コマドリの仲間。 ココナツの木に止まるシキチョウ 別の木に、メンバ-の人たちがさかんにカメラを向けているので聞いてみると、 カノコバト[鹿子鳩)がいるという。腹部は赤味を帯び、羽根はまだら模様、日本に見られる キジバトの仲間らしい。そういえば植物にもカノコソウ(鹿の子草)、カゴノキ(鹿子の木)と いうのがある。 さらにキマユヒヨドリ(黄眉鵯)も見られた。羽根は黄褐色、顔から腹部にかけては黄色い。 スリランカ、インドに生息している鳥だそうだ。 カノコバト キマユヒヨドリ レストランを離れシギリヤに向かう途中、大きく広げた枝先に綿状のものをたくさんつけた 樹木が見られた。キワタ(木綿)と呼ばれる落葉樹だという。別名コットンツリ-。アオイ科に 属し原産地は熱帯アジア。 キワタの花は赤い。綿状に見えるのは果実の殻が開裂して出てきた綿毛で、実際の種子はこの 綿毛に包まれていると思われる。この綿毛は枕やクッション、ブランケットなどに利用される そうだ。ちなみに綿もアオイ科の植物で、やはり果実が開裂して綿毛が出てくる。 果実の殻から出たキワタの綿毛 綿の花と綿毛 トルクメニスタンにて 2008.10.16 その後1時間20分位走り、14時過ぎシギリヤの森のホテルに着く。広い庭内には緑豊かな 木々が茂り、私たちが止まるコテ-ジ風の棟が建ち並ぶ。レストラン前にはプ-ルも配され、 青空に頭を出したシギリヤロックが望める。広大な森の中に忽然と現れた岩山で、その形は 巨大な円形闘技場コロシアムのようにも見える。 シギリア・ロックの歴史は今から1500年前に溯る。5世紀の後半、アヌラ-ダブラを統治して いた父を殺し王座についた長男カッサバ1世はシギリアに遷都し、7年後の484年、この岩山の 頂上に王宮を築いた。周囲は切り立った断崖絶壁、空に向かって垂直にそそり立つ巨岩である。 高さは約200m、辺りは深い森に囲まれている。この難攻不落に見えた要塞も495年、インドに 亡命していた弟の軍勢によって攻め込こまれ陥落させられた。当時王だった長男は自決、この 王国はわずか11年で滅びたと伝えられている。現在山頂にはその王宮跡だけが見られ、建物は いっさい残されていない。1500年前一時は栄華を誇ったであろう、カッサバ王の夢の跡である。 ホテル庭からのシギリヤロック 15時ホテル出発し15分程でシギリアの入り口に着く。広い敷地内には掘割のような水路や ハス沼が配され、よく整備された道がシギリヤロックへと続いている。木々の間をぬけると、 眼の前に巨大な岩塊が現れてきた。全体は楕円形、山頂はやや傾きながらも平坦に見えるが、 周囲の岸壁は垂直に切り立っている。シギリヤロックの姿である。 シギリヤロック 登山口にとりつき石段をゆっくり登りはじめる。この日はすでに午後3時を過ぎていたためか、 観光客は少ない。歩きやすくなっていた。大きな岩が重なり合ってできたトンネルをぬけて、 シギリアレディが描かれた洞窟に向かう。途中岩が突き出てテラスのようになっているところで 辺りを見回すと、眼下に緑豊かなシギリヤの森が広がっていた。遙か遠くには白い仏塔も見える。 小さな島国とは思えないほどの広大さだ。 広大なシギリヤの森 桟橋を渡り、鉄柵で囲まれたらせん階段を上って行く。眼の前にはオ-バ-ハングに切り 立った岸壁が見える。この上にシギリヤレディが描かれた洞窟があるはずだが、よくもこんな ところに壁画をつくったものだと思う。 鉄柵で囲まれた回転式の階段 階段を上りきったところに窪みになった洞窟があり、壁にシギリヤレディのフレスコ画が 描かれていた。当時は500体の美女が描かれていたそうだが、今はそのほとんどが消滅し18体 だけが残されている。この壁画は北側にあった僧院に向かう天女の姿であるとか、父を殺した カッサバ王がその霊を鎮めるために描かせたとかいう説があるが、いずれにしてもカッサバ王に 仕えた宮女たちをモデルにしたのではないかとイメ-ジしたくなる。 美女たちは妖艶にして官能的、時空を越えて当時の王宮の栄華が偲ばれる。 写真撮影は今年から禁止されていた。これ以上の壁画の劣化を防ぎ保護するためだろう。幸い 私は昨年、この美女たちをカメラに収めている。 シギリヤレディの壁画 シギリヤレディの洞窟から岸壁につくられた回廊をぬけると、岩に彫られた巨大なライオンの 爪の像が建つ広場に出る。ここからさらに宮殿跡のある山頂への道があり、多勢の人が階段を 上っていく姿が見られた。急こう配に見えるがそれほどキツクはない、15分ほどで山頂に辿り つくことができる。 メンバ-の人たちは階段を上って行ったが、私はライオンの広場でしばらく休んだあと下に .降りることにした。宮殿跡には昨年と10数年前にも訪ねていることもあったが、それよりも一人 で自由に行動したかったからである。 巨大なライオンの爪の像の間を行く観光客 宮殿跡のある山頂への階段を上って行く観光客 ところが待ち合わせ場所を間違えてしまった。入場する時にバスから降りたところと勘違い したのである。山道を降りたあと広い場内を行ったり戻ったりしていたが、水路近くでオ-ト 三輪タクシ-を拾って駐車場まで走り、無事メンバ-と合流することができた。 夜バスでスレンダ-ロリスの住む森に出かける。この動物はスリランカの固有種。 サルの仲間だが体長15~25cmと非常に小さく夜行性のため、なかなか出会えない貴重な 動物らしい。全員赤外線ライトを持ち、スレンダ-ロリスのエキスパ-トだというガイドの チャミンダさんに案内してもらいながら暗い森の道を歩いて行く。 ほどなくガイドが草叢に光を当てると、現れたのがインドヤイロチョウ。ライトが当っても 身じろぎもしない。どうやら眠っているようだ。 ヤイロチョウ(八色鳥)は夏鳥として日本の本州中部以南にも見られ、秋になると越冬地の ボルネオや中国南部に渡るという。 草叢で眠るインドヤイロチョウ やがてチャミンダさんが何かを見つけたようだ。どうやらスレンダ-ロリスがいたらしい。 彼は闇の森の中に赤外線ライトを当てながらしばらく探していたが、姿を見失ったのだろう、 また別の方角に歩きだした。道は狭く何とか一人が通れる位、前の人を追い越すことはできない。 ところが先頭を行くチャミンダさんが突然うしろに廻ったりすると、最後尾にいた私が一番前の 方になったりする。どこをどう歩いているのかは分からない、ひたすら彼のあとについて行く。 ひたすら彼が向けるライトに眼を当てている。今か今かとその瞬間を待っている。しかし スレンダ-ロリスは現れてこない。 私たちは一旦管理棟に入り、この動物の分布や生態などを聞いたあと再び出かける。その後も かなり探し歩いた。森に入ってすでに1時間以上が経過している。スレンダ-ロリスを見るのは ダメだろう、私は半分諦めていた。やがて少し広い草原の坂道にさしかかった時、チャミンダさん が小杉さんに 「なかなかロリスが現れません、もう少し探しますか?、それとも…」…と話しかけると、 「あと10分位お願いします」…彼女が答える。 今度は森の茂みから竹やぶの道に入る。歩きはじめてまもなく、チャミンダさんが気づいたの だろう、竹やぶにライトを当てた時、上の方で何やら動く灰色の動物がチラリと見えた。 スレンダ-ロリスだつたらしい。しかしその姿はすぐ消えた。ほんの一瞬である。カケラを向ける どころではない。動きもすばやく見る角度も悪かったためか、私にはイタチか大きなリスのように しか見えなかつたが、赤い眼を見た人はこう言っていた。”あれはまさしくスレンダ-ロリスだと”…。 帰りの途中木枝に、ボ-ルのように丸くなって眠っている小鳥がいた。誰かのサイホウチョウと 言う名前が聞こえたが、もしかしたらオナガサイホウチョウかもしれない。 ボ-ルのように丸くなって眠る小鳥 2月26日~27日 最終日 シギリヤ~コロンボ空港~成田 8時ホテル出発、すぐ裏のシギリヤロツクが展望できる湖畔に出てストップ。ここから眺めると シギリヤロックもちがった形に見える。湖畔にはいくつかの水鳥が見られたが、水草の蔭で葉づく ろいをしていたセイケイ(青鶏)にカメラ向ける。この鳥はこうした葦の茂みに巣をつくっている のかもしれない。クイナ科に属し日本にいるバンやオオバンと同じ仲間。 シギリヤロツクを背に広がるハス沼 セイケイ 湖畔を離れ2時間半位走り、再び大きなハス沼に出たところで野鳥観察。沼にいたのはレンカク、 インドトサカゲリ、ヘビウ、カモの仲間、インドアカガシラサギなど。 中でもいちばん眼を惹くのがレンカク、それほどカラフルではないが清楚で美しい。”野鳥の貴婦人” とも言いたくなるような風情を感じる。 レンカク インドトサカゲリは数羽で仲良く走り回り、エサを探しもとめていた。この鳥もまた美しい。 インドトサカゲリ カモの仲間 インドアカガシラサギ ハス沼から1時間近く走った昼食レストランの庭では、アオショウオビンが見られた。木枝に 止まり時々移動するが遠くには行かない、じっとしているときが多い。この野鳥、正面から見ると ユ-モラスな顔をしている。 アオショウビン 近くの木枝には水面を見つめているコサギがいた。水辺や田んぼではよく見かけたが木枝では 初めて。日本にもいる鳥なので珍しくはないが、こうしたところに止まっていると風情のある 鳥に見える。 木枝に止まるコサギ 昼食を終えてコロンボへ向かう途中、カンムリワシが道端の電線に止まっていた。精悍な 顔つきだ。しかし、こんななところにカンムリワシがいるとは...。日本でトビを見かけるような 身近さを感じる。 カンムリワシ ここから走ること1時間、車から降りてしばらく散策。道脇には花を咲かせ、一部には実をつけ ているカシュ-ナッツの木があった。この植物はウルシ科の常緑高木で、原産地は中南米だと いう。この先の路傍でカシュ-ナッツを売っている店があったので買って帰り、ブランディ-の つまみにして食べてみたが、甘く香ばしい味が口に広がりとても美味しかった。価格は量により 1袋500円~1000円。 カシュ-ナッツの花 カシュ-ナッツの実 このあと民家の空地で、ココナツの木を手斧1本で建材にする職人技を見学してからコロンボ 空港に向かった。 19時45分コロンボ空港を発ち翌27日、予定の時刻通り7時30分成田に到着、ス-ツケ-スを受け 取り千葉行きの電車に乗る。 今回のような動物や野鳥だけを目的としたネイチャ-ツァ-は初めての経験だったが、 面白かった。10日間の日程があっという間に過ぎたような気がする。海外の野鳥については まったく知識をもっていなかったが、多少でもその名前を知ることができたからだろう。植物でも そうだが、名前が分かれば親しみを抱く、興味が湧く、もっと知りたいと思うようになる。 とくに野鳥に詳しいM・Jさんにはそれらの名前を親切に教えていただき、帰国し通販で イギリスから取り寄せた図鑑と照合するのに大いに参考になった。厚くお礼申し上げたい。 まだスリランカにはヤ-ラ-国立公園以外にもいくつかの自然公園がある。そしてインドや ネパ-ル、ブ-タン、バングラデシュにも手つかずの自然が残っていることだろう。 いろいろと興味は尽きないが、いつか機会を見つけてそうしたところのネイチャ-ツァ-に参加 したい...そんなことを思いながら、車窓に流れる里山の風景を眺めていた。 ― 了 ― 2016.4..23 記 私のアジア紀行 http://www.taichan.info/ |